通帳は語る

夫が家を飛び出してから、日向さんは取り憑かれたかのように、夫の不倫の証拠探しに没頭していた。

「私はそれまで、夫の持ち物を探ったことはありませんでした。それは無意識に、“やったら終わってしまう”と知っていたからのような気がします。今思えば、私たち夫婦の関係はそんな脆いものでした」

ある日、夫の通帳が何冊も出てきた。法人のものと個人のものがあったが、日向さんは個人のものを開いた。

写真=iStock.com/west
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2016年4月に女性Bから25万円の入金。同年9月に夫から女性Bに28万5000円振込。

女性Cから65万円の入金。その翌日84万円のクレジットカードの引き落とし。これはどう考えても、その引き落としのために女性Cに入金させたようにみえる。女性Dからの入金も見つかり、通帳を見る限り愛人と思しき女性は最低でも4人いた。夫は常に複数の愛人、それもお金にゆとりのある女性と同時進行で不貞をはたらいていることがわかった。

日向さんは真夏の暑い中、クーラーのない部屋で汗をかきながら夫の不倫の証拠集めに夢中になった。ほとんど食事も取らず、みるみるやせ細っていったが、気にも留めなかった。

「不倫の証拠探しは、自分を傷つける行為でした。その傷は簡単に癒えるものではなく、今もフラッシュバックに苦しめられていますが、その時はどんなにつらくても目をそらすことなく、夫の女狂いの末期症状と私たち夫婦が終わろうとしていることを、私自身が認めなければいけない時期にきていることは分かっていました」

通帳には店番号もしくは取扱店という番号が記載されている。検索してみると、夫は日本全国を飛び回っていた。

「夫は嘘つきの王様でした。通帳の中には、私の知らない狂気に満ちた人間がいました。夫は、家族よりも自分の仕事よりも将来よりも、自分の欲望のおもくままにその日その時の快楽だけを求めて女たちとの逢瀬に命を懸けていました。何より私がショックだったのは、夫の借金を夫婦で力を合わせて返していこうと思っていたのに、夫が外で女と豪遊していたことでした」

夫は「海外出張だ」と言って、夏休みや春休みに2週間もいなくなっていた。領収書のホテルの部屋はいつもダブルかツイン。レストランも常に2名分。毎年自分の誕生日はいろいろな国の高級ホテルに女性と滞在。夫は借金を返さず、王様のように遊んでいた。

「数々の証拠から、夫が好きなのは、お金が自由になる自立した女性。裕福に育っていて自分のことを許してくれて、簡単に騙せる女たちだと気付きました。本当に1人の女性を愛していたなら、他に女性は必要ないはず。何人もの女性たちを渡り歩くようなことなどしないはずです。不倫だけなら話し合いの余地はあったのかもしれませんが、数々の証拠は夫のセックスとお金への依存症が末期的だということ、私のできることはもはやないということを物語っていました」