「自由で開かれたインド太平洋」はどこへ行った

岸田首相がFOIP構想の推進にあまり熱心ではない、と言うつもりはない。しかし、自由主義的価値観を基盤とし、海洋国家のネットワークを通じて諸国の連携を強めていこうというFOIPの方向性は、今回のG7広島サミットの成果文書にはさほど反映されなかった。

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例えば、5月初めに岸田首相がケニアを訪れた際には、同国のウィリアム・ルト大統領との会談の中でFOIPの枠組みが強調された。アフリカ大陸はインド洋に面しており、東アフリカの重要国ケニアはモンバサ港などの地域屈指の貿易施設を持ち、海洋の安全保障にも力を入れている。会談のなかでFOIPが強調されたのは、当然だった。

さらにG7広島サミットには、アフリカ連合の議長国を務めるコモロのアザリ・アスマニ大統領が招待された。コモロはケニアからも遠くない、インド洋に浮かぶ島国だ。広島サミットにおいても、FOIPの中でコモロ、あるいはアフリカをきちんと位置づけることが自然だったはずだ。

FOIPから排除されたアフリカとウクライナ

ところがG7広島サミットで発出された一連の文書において、アフリカは徹底的にFOIPの枠組みから排除された。G7広島首脳コミュニケの中の、自由で開かれたインド太平洋の重要性を語るセクションで特筆されたのは、やはり議長国が招待された東南アジア諸国連合(ASEAN)と太平洋諸島フォーラム(PIF)だけだった。岸田政権が「関与の強化」をうたった「グローバル・サウス」に間違いなく含まれているはずのアフリカが、「インド太平洋」には関係のない地域、と言わんばかりの扱いを受けたのである。

さらに言えば、3月に岸田首相がキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と共に発出した日・ウクライナ共同声明でも、FOIPの概念は次のように強調されていた。「両首脳は、欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障の不可分性を認識し、自由、民主主義、法の支配といった基本的な価値や原則を共有する重要なパートナーとして、国連憲章にうたう目的及び原則に従い、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化すべく共に協力する意図を再確認した」

「ユーロ大西洋」地域は、ウクライナが面する黒海から、地中海・紅海をへて、インド洋・太平洋に至る。岸田・ゼレンスキー共同声明でうたわれた世界観は、G7としてFOIPの重要性を強調する際にも、ゼレンスキー大統領をG7サミットの席に迎え入れる際にも、参照することができるものだったはずだ。だが実際には、ウクライナもアフリカと同様、FOIPと関連付けた形では言及されなかった。