今のG7は単なる「先進国の集まり」ではない
現在のG7は、かつて日本でそう呼ばれたような「先進国首脳会議」という自己定義を行っていない。むしろ、「法の支配、民主主義、人権」などの基本的価値観を共有する諸国の、地域横断的な討議の枠組みというのが、構成諸国自らによるG7の定義である。つまり今のG7とは「価値の共同体」であって、「先進国首脳会議」ではない。
一方、2000年代以降の急速な経済発展によって、国際社会における存在感を相対的に高めているのがBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)だ。現在は中国の存在感が圧倒的だが、それぞれ世界の各地域の有力な新興国である。ブラジルは、中南米の雄としてBRICSの一角を占めている。そしてインドは、すでにブラジルの二倍近い国内総生産(GDP)を持ち、数年のうちには世界第3位の経済大国になると目されている。
BRICSの中でも異なる国際政治へのスタンス
同じBRICS構成国とはいえ、各国のG7とのパートナーシップの性質は異なっている。BRICS諸国の中から広島サミットに招待された、インドとブラジルの2国においてすら違う。G7首脳がウクライナ支援で結束するなか、インドのモディ首相は広島に到着した直後のゼレンスキー大統領と真剣な表情で握手を交わし、同大統領との2国間討議に臨んだ。一方、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が頻繁に語る「多極的な世界秩序」概念に沿ってBRICSを位置づけがちな左派系のルラ大統領は、ゼレンスキーとの2国間討議を行わずにサミット会場を去った。
インドとブラジルそれぞれの首脳の、ゼレンスキー大統領に対する態度の違いは、そのまま「グローバル・サウス」概念の取り扱いを巡るG7メンバー間の差異にもつながっている。成功裏に終わった今回のG7広島サミットのなかで、最もデリケートなすれ違いが見えた部分だったといえる。