所属タレントにコメントさせ、社長は隠れたまま

櫻井は、言葉を選びながら、慎重な面持ちで語っていたが、「何よりも避けなければいけない」と気遣うべき対象は、現に「性被害を受けた」と訴えている人たちではなく、「性被害を受けたのでは」という「臆測で傷つく人たち」だったことは残念に思う。

「自分は被害者側に見られうる立場に置かれている」という発言もあり、現在活躍しているジャニーズ事務所のタレントの立場を守ることが念頭にあったのかもしれない。

所属タレントが自社の問題についてニュース番組でコメントを求められるという構図はきわめて異例だ。櫻井のコメントばかりを責めるわけにはいかないだろう。こうした構図になったのは、藤島ジュリー景子社長が「謝罪動画」を公開するだけで、一切の取材に応じていないからだ。タレントを矢面に立たせるばかりで、性加害の当事者の親族である現経営者が隠れたままでは、視聴者の理解は得られないだろう。

これまで櫻井がコメントを見送ってきたのは、ジャニーズ事務所の最年長タレントである東山紀之の影響があったとの指摘もある。東山は自身がMCを務める「サンデーLIVE‼」(5月21日放送、テレビ朝日系)で、「このままジャニーズという名前を存続させるべきなのか」と踏み込んだ発言をする一方、「僕からコメントするまでは後輩たちには待ってもらった」と発言していた。テレビ朝日の会見では、東山がコメントすることは局側からの要請であったことも明かされた。

テレビ朝日のスタジオの向かいに「合宿所」があった

テレビ朝日とジャニーズ事務所の関係も長く深い。4月クールではドラマ枠で井ノ原快彦主演の「特捜9 season6」と横山裕主演の「帰ってきたぞよ!コタローは1人暮らし」を放送し、6月7日からは「特捜9」の後に東山紀之主演の「刑事7人」が始まる。「ミュージックステーション」には毎回いずれかのグループが出演し、司会のタモリと共にひな壇に座って軽快にトークしている。

テレビ朝日本社前(筆者撮影)

「ミュージックステーション」などを収録する本社は六本木ヒルズにあり、もうひとつの収録拠点は赤坂寄りのテレビ朝日アーク放送センターにある。

ここで気になるのは、複数の元ジャニーズJr.がここでジャニー喜多川から性的なことをされたと告白した「合宿所」が、一時期、アーク放送センターの向かいにある全日空ホテル(現ANAインターコンチネンタルホテル東京)にあったということだ。同じアークヒルズの敷地内で、あまりにも近すぎる。番組の収録を終えたタレントが、徒歩で向かいのホテルに入っていくという流れが目に浮かぶようだ。テレビ朝日は事務所の検証に任せるのではなく、この点を調査すべきだろう。