筋トレは長時間だとむしろ寿命が縮む

逆に、最新の医学研究(※3)では「筋トレはむしろ長時間だと寿命が縮む」可能性が指摘されました。どうでしょう、みなさんの思い込みが揺らいできたのでは。

これは、東北大学大学院運動学分野講師の門間陽樹もんまはるきさんらが、2022年に発表したもの。あわせて、適度な筋トレによりあらゆる病気による死亡リスクが下がることもわかったのです。

まずは、どんな研究だったのか、簡単に紹介します。この研究は、国内外の研究論文1252本を集計・整理した(システマチックレビュー)もの。その中から信頼度の高い論文16本を選び、筋トレの時間と病気・死亡リスクとの関連を調べました(メタ解析)。

こうした、いわば「研究の研究」は、医学において信頼度が高いものとされます。

筋トレをまったく実施していないグループと比べて、筋トレを実施しているグループでは、死亡、心血管疾患、あらゆるがん、糖尿病のリスクが10~17%、低いことが示されました。また、時間についてみると、死亡、心血管疾患、あらゆるがんのリスクは、週に約30~60分の筋トレを実施した場合に最も低くなりました。そして逆に、週に130~140分を超えると、これらのリスクが上昇に転じたのです。

健康のためなら長くても10分程度で十分

「筋トレが長時間に及ぶと、むしろリスクが上がる」というのは、まさに従来の筋トレ観へのカウンターです。ただし糖尿病だけは、時間が長くなってもリスクは減り続けました。門間さんらは「筋トレの長期的な健康増進効果が示された一方、やり過ぎるとかえって心血管疾患やがん、死亡に対する健康効果が得られなくなってしまう可能性が示唆された」としています。

朽木誠一郎『健康診断で「運動してますか?」と言われたら最初に読む本 1日3秒から始める、挫折しない20日間プログラム』(KADOKAWA)

「筋トレのやり過ぎは危険」とSNSでも話題になり、見かけたことがある人もいるかもしれません。ここで注目したいのは、もっともリスクの低くなった、「週に約30~60分」という時間です。運動が週に3回だったとして、1回分10~20分の筋トレで病気のリスクが下がり、寿命が延びた可能性があります。「1日1回3秒」は短すぎると感じた方がいるかもしれませんが、健康のための筋トレは長くても10分程度で十分なのです。

ただし、あらゆる研究がそうであるように、この研究にも限界があります。絞り込まれた論文16本の研究対象には、高血圧などの基礎疾患を抱えた人も含まれます。健康な人と基礎疾患のある人とで結果に違いがあるかは、この研究結果からはわかりません。また、65歳以上・未満など、年齢による違いもわかりません。

ただし、ここでも結論は同じで、病気や死亡リスクを下げるために「筋トレはやらないよりやった方がいい」と門間さんも結論づけています。「ただ、ガツガツとやり過ぎることには注意した方がいいかもしれない」ともコメントしています。

※1:『ココロの体力測定2021』一般社団法人日本リカバリー協会らが2021年に実施。インターネットアンケート方式で、全国の男女10万人(男女各5万人)を対象にした。
※2:Sato, S., et al., Effect of daily 3-s maximum voluntary isometric, concentric, or eccentric contraction on elbow flexor strength - Scand J Med Sci Sports. 2022 May;32(5):833-843.
新潟医療福祉大・中村、佐藤らにより2022年に発表された研究。学生39人を対象に、1日1回3秒間のレジスタンス運動を4週間継続することで、上腕二頭筋の筋力が向上することを明らかにした。
※3:11 Momma, H., et al., Muscle-strengthening activities are associated with lower risk and mortality in major non-communicable diseases: a systematic review and meta-analysis of cohort studies - Br J Sports Med. 2022 Jul;56(13):755-763.
東北大・門間らにより2022年に発表された研究。国内外の研究論文1252本をシステマチックレビューし、その中から16本をメタ解析することで、筋トレの時間と病気・死亡リスクとの関連を明らかにした。

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