出力は高めても“筋肉量“が増加したわけではない
さて、地方の医療系大学の研究が世界的な話題になったことには、もう1つの要因があります。それが伸張性収縮の世界的な権威であり、この研究を指導したエディスコーワン大学教授の野坂和則さんの存在です。
The New York Timesの記事の中では、この研究の“限界”も指摘されています。
まず、被験者は数十人の規模で、かつ若年者。研究結果が誰にでも当てはまるわけではありません。また、腕の筋肉についての研究であり、その他の筋肉が同じように変化するかはわかりません。
そして、重要なのは、この研究で“筋肉量”が増加したわけではない、ということ。
「体が小さい(筋肉量が少ない)のに力が強い(筋力が強い)人」を想像するとわかりやすいのですが、この研究では、実験前後の筋肉量の変化については検討されていません。つまり、この結果は、すでにある筋肉の出力を高めた一方で、筋肉の総量を増やしたわけではない可能性があります。一方、人が健康になるのを助けるのは、筋肉の量であることが知られています。
大事なのは「キツさ」よりも「続けやすさ」
ただし、です。力が強くなれば、例えば同じメニューで筋トレをするとき、主観的にはラクになることは明らかです。同じ筋トレをしてもキツくないのですから、筋トレを続けるハードルは下がります。また、別のメニューに取り組むモチベーションも上がるはずです。
野坂さんはThe New York Timesの取材に対し、今後は「3秒間の伸張性収縮を複数回、繰り返すことで、筋肉量と筋力が増加するかどうかを研究する予定」「このアプローチを脚や他の筋肉に適応する方法を模索している」と答えています。
野坂さんの言葉を借りれば、「少なくとも、何もしないより、1日1回3秒でも筋トレをした方が、間違いなくいい」と言えます。
「多くの人は筋トレをしていません」「非常に短いトレーニングから始めることは、そうした人たちが筋トレを始めるための効果的な方法かもしれない」
この研究結果が示すのは「始めさえすれば、続けやすくなる」という筋トレの特性。そして、筋トレは続ければ続けるほど効果が得られます。私はこうしたキツくない、つまり低強度=LI(Low Intensity)で短時間=ST(Short Time)のLISTトレーニングを、運動を習慣化させるものとしておすすめしています。