なんと「1日1回3秒」から効果が得られる

その1つが、「筋トレは想像よりもはるかに低コストで始められる」というもの。

2022年2月、地方のある医療系大学が発表したある研究(※2)が、国内ばかりか世界を騒がせました。そのセンセーショナルな内容によれば「筋力トレーニングは1日3秒でも効果がある」ということでした。

新潟医療福祉大講師の中村雅俊なかむらまさとしさん、大学院生の佐藤成さとうしげるさんらによるもので、スポーツ医学の国際誌に掲載されました。コロナ禍で運動不足が指摘される中、「時間がない」など筋トレを継続する上でありがちな壁に対し「どこまで手軽でいいのか」を探るものでした。

コロナ禍以前、運動と健康の関連を調べるものでは、「何をすると健康にいいのか」といった、いわば“足し算”の研究がほとんどでした。こうして“引き算”でミニマムを探るような研究が現れたのは、コロナ禍を経たからでしょう。

誤解を恐れずに言えば、執筆グループや掲載雑誌、研究規模のインパクトは、そこまで大きくありません。しかし、この研究はThe New York Timesにも取り上げられ、多くの人の知るところになった、珍しい事例です。

500mlのペットボトルを3秒上げ下げするだけでOK

まずは、どんな研究だったのか、簡単に紹介します。この研究に参加したのは39人の大学生でした。「ひじの角度を固定して上腕に力を入れる(等尺性収縮)」「ダンベルを持ち上げるように肘を曲げていく(短縮性収縮)」「重いものをゆっくり下ろすように、負荷に逆らって肘を開いていく(伸張性収縮)」の3種類の動作を、マシンを使って全力で、「平日1日1回」「3秒間」「4週間」行いました。

その結果、伸張性収縮を続けた場合は平均11.5%、それ以外を続けても約4.5%ほど上腕二頭筋の筋力が向上した、という結果が得られたのです。

「○○収縮」と聞くと難しく感じられるかもしれませんが、例えば自宅の一角で、500mlのペットボトルを片手で持ち上げ、たった3秒、全力で重さに逆らって、ゆっくり下ろしていく(伸張性収縮)のと同じことです。

これだけで、実際に効果が得られるなら、筋トレという行為への精神的なハードルは、ずいぶんと下がるのではないでしょうか。ジムに行く時間と気力がなくても、これなら今すぐやってはい終わり、です。

私は、前回記事〈メタボ健診の「腹囲測定」はアテにならない…そんな健康診断で「本当に注意するべき項目」を医療記者が解説する〉で、コストの低い習慣は身につきやすいと述べました。こうした最新の科学的な知識は、必要以上に大きく見積もったコストを引き下げてくれるのです。