前例のない取り組み
JR北海道の路線は交流電化と非電化がある。伊豆急行はすべて直流電車なので「THE ROYAL EXPRESS」は自力走行ができない。車内設備の電源確保のために電源車が、牽引用にディーゼル機関車がそれぞれ必要になる。北海道での「THE ROYAL EXPRESS」は電車ではなく、機関車牽引による客車扱いであることを示す。
そこで東急はJR東日本から電源車のマニ50形を購入した。ただ、マニ50形は給電能力が5両分までという制約から、「THE ROYAL EXPRESS」は1・4・5・6・8号車の5両編成に組み直す。さらにパンタグラフも外し、交流電化区間の架線に触れないようにした。
JR北海道は、水戸岡氏がカラーリングをデザインしたディーゼル機関車を用意した。
さらにJR貨物の協力を得て、「THE ROYAL EXPRESS」を約1200キロ離れた伊豆高原―伊東―札幌運転所間を回送運搬することになった。
このような運搬はすぐにできるものではない。定期の貨物列車ではないので、伊東―札幌運転所間のダイヤ、牽引する機関車の手配など、詳細を決める必要があり、運転日の数カ月前までには決めなければならない。
この企画が発表された2019年2月12日は手探りの状態だったと推察する。複数の鉄道事業者が協力した前例のない取り組みが成功し、2023年で4期目を迎えた以上、今後はそのノウハウを東急とJR北海道以外の鉄道事業者が取り組むことに期待したい。
初年度の抽選倍率は8倍強
かつて北海道には、上野―札幌間の寝台特急〈北斗星〉〈カシオペア〉、大阪―札幌間の寝台特急〈トワイライトエクスプレス〉という豪華な夜行列車があり、長い時間をかけて列車の旅を楽しむという「ゆとり」が好評を博していた。そうした「ゆとり列車」が北海道の活性化に寄与する列車だったことは言うまでもない。
夜行列車が壊滅に近い状況の中、「THE ROYAL EXPRESS」の北海道遠征は、新たな「ゆとり列車」となるだろう。
東急は、この企画について「伊豆では、観光列車が走ることで沿線地域が活性化していった。そのノウハウをいかし、北海道を元気にしたい」(広報)と語る。
JR北海道はこれまでSL列車、トロッコ列車、リゾート気動車など、特化型車両による臨時列車を運行してきた。ただ、プレスリリースで宣伝しても、全国紙や全国ネットが大きく取り上げない限り、少なくとも鉄道の知名度向上、来道者数の増加にはつながらない。
だが、「THE ROYAL EXPRESS」が“来道”するだけでも道内はもとより、道外でもビッグニュースになる。
「本プロジェクトは、『JR北海道が単独では維持することが困難な線区』のうち、『鉄道を持続的に維持する仕組みの構築が必要な線区』において、沿線地域の皆さまの御理解と御協力を得ながら進めている線区ごとのアクションプランの具体的な取り組みのひとつともなり、線区の維持・活性化につながるものと考えています」(JR北海道広報)
JR北海道はこの企画で得たノウハウを今後の観光列車の運転につなげていきたい考えだ。2023年は「日本最北端の旅」と銘打ち、稚内市へ向かうプランを新設している。2024年以降は道南などの新しいプランにも期待したい。
東急によると、応募倍率の2020年度は約8.2倍、2021・2022年度は約3倍で、リピーターもいるという。