被害者は国民だ

次の図表3は、酪農の付加価値と酪農保護に支払っている国民負担を示している。

国民は消費者として国際価格より高い価格を負担して酪農家に所得移転を行い、納税者としてほぼ付加価値に近い額を負担している。これ以外に飼料用の米に1000億円ほどの財政負担をしている。さらに数字に出ないものとして、畜産公害というマイナスの外部経済効果がある。こうしたことをトータルで考えると国民負担は酪農が生み出した付加価値(1800億円)を大幅に上回る。酪農はマイナスの価値しか生んでいない。

国民は穀物依存型の酪農を存続させるべきかを議論すべきだ。

図版=筆者作成

誤り③「酪農危機で牛乳が飲めなくなる」

鈴木氏はメディアの取材でたびたび「酪農危機で牛乳が飲めなくなる可能性」について言及している。恫喝めいた主張である。

そもそも輸入が途絶する食料危機の時には、輸入穀物に依存する酪農は壊滅し、その生乳は飲めなくなる。

次に、乳牛の2割は放牧されているのでフレッシュな牛乳はなくならない。また、牛乳を加工するとバターと脱脂粉乳が作られ、それに水を加えると牛乳(加工乳)ができる。われわれは、冬場に加工したバターと脱脂粉乳を需要期の夏場に加工乳にして飲んできた。今でも加工乳の原料として輸入されたバターと脱脂粉乳が使われている。足りなければ、加工乳を飲めばよい。

輸送技術の進展により、飲用牛乳が貿易できない財であるという常識も否定されつつある。国内でも北海道から都府県へ、飲用牛乳と生乳で年間100万トン近く輸送されている。関東の人が飲んでいる北海道牛乳のかなりは生乳で根室港から日立港に移送されたものを関東で飲用牛乳にパッキングしたものだ。ドイツ、ポーランド、ニュージーランドから中国への飲用(LL)牛乳の輸出が近年急増している。また、日本から飲用牛乳を中国へ輸出するための技術開発が進められている。

国産が安全で品質が良いというのは誤りだ。パンやラーメンの原料は輸入小麦だ。国産の小麦は品質が悪くパン等には向かない。国産にこだわると、パンもラーメンも食べられなくなる。高い関税でパリのスーパーの数倍の値段を払わされても、エシレバターを使った菓子店には消費者の長い行列ができる。輸入チーズは、日本の全ての牛乳乳製品消費量の3割を占めている。日本の乳製品は、価格でも品質でも劣っている。

戦後の生乳生産は30万トンほどだった。われわれが牛乳や乳製品を摂取しだしたのは、それほど古い話ではない。長年牛乳や乳製品を食べてきた欧米の人に比べ、日本人は乳糖を消化できない人が多い(乳糖不耐症)。

また、われわれがフレッシュな牛乳を飲んでいるのかも不確かである。飲用牛乳の9割は超高温瞬間殺菌(UHT)法で処理されている。これはおいしい牛乳とは言えないという人もいる。よい菌も悪い菌も死んでしまう、チーズが作れない牛乳である。日本には学校給食の脱脂粉乳から消費が始まったという不幸な歴史がある。