スーパーコンピューターの性能は世界第1位だが…

一方で富士通はどうであったのか。富士通は「FUJITSU」ブランドを掲げて世界各地でビジネスを展開し、グローバルで約12万人の従業員を抱え、22年3月期には連結での売上高が3兆5868億円という日本を代表する大企業だ。

国内では製造業や官公庁の基幹情報システムなどに強い一方で、スーパーコンピューターの「京」「富岳」などを共同開発。「富岳」は国際的な性能ランキングである「Graph500」のBFS部門において、世界第1位を6期連続で獲得するなど、技術力に対する世界的な評価も獲得している。

このように高い技術力を売りにしてきた富士通だが、19年9月、社長就任後3カ月の時田は経営方針説明会を開き、「IT企業からデジタルトランスフォーメーション(DX)企業への転身を目指す」と表明していた。

「このままでは通用しなくなる」危機感が強くなった

これまでIT部門の顧客を中心に、システムの構築・運用・保守を事業の柱とし、強みとしてきた富士通が、デジタルテクノロジーをベースにして、社会やお客さまに価値を提供する企業に大きく転換すると宣言。従来のビジネスは既存の顧客基盤で収益性の改善を図る一方、IT環境の刷新やデータ利活用のビジネス(デジタル領域)を成長領域として将来にわたる収益基盤と位置付け、グループ再編も伴う経営改革に取り組むと述べた。

時田は就任と同時に、全社を変革するためのグランドデザインを描いて具体的な施策に着手し始めていた。改革を急いだ理由は、過去20年間の売上収益としては低迷しており、社内を閉塞へいそく感が覆っていたことにある。この空気を一掃して社員のやる気を引き出さないと「FUJITSUブランドは通用しなくなる」との危機感があったからだ。

「顧客の悩みを把握して、新しい解決法を提案し、何か新しい変革をもたらすようなビジネスは、これまで思うような結果を出せていませんでした。これを変えることができなければ、富士通は何のために存在するのかわからなくなってしまうと考えていました」と時田は話しており、ダボスでの体験はその危機感を更に強めることとなった。