「CO2フリーストロー」を生産する工場
脱炭素が合言葉になっている現在、多くの産業が大変革を迫られている。自動車業界はガソリンエンジン車から電気自動車(EV)、エネルギー業界は化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を急がなければならない。そうしなければ「環境破壊者」のレッテルを貼られ、消費者からそっぽを向かれかねない。
自動車やエネルギー業界と比べるとプラスチックストロー業界は桁違いに小さい。だからといって脱炭素と向き合わずに済むわけではない。その意味でシバセ工業は優等生だ。いわゆる「環境経営」を徹底しているのだ。
一例が本社工場の「CO2(二酸化炭素)フリー」化。すべての電力が太陽光発電と水力発電で賄われており、CO2排出量が実質的にゼロになっている。同工場で生産されたストローのニックネームは「CO2フリーストロー」だ。
シバセ工業は2009年に太陽光パネルを本社屋上に設置。「FIT」と呼ばれる固定価格買い取り制度が始まる前であり、先駆的だった。2020年には水力電力プラン「おかやまCO2フリー電気」の契約第1号になり、岡山県と中国電力から認証書をもらっている。
さらに2021年には国際規格「ISO14001(環境マネジメントシステム)」の認証を取得。これによって、プラスチック業界に属しながら環境に配慮した経営を実践していると証明してもらえたわけだ。
2023年に入ると、環境対策ストローとしてバイオマスのプラスチックストローにも取り組み始めた。化石資源に代えて植物由来のバイオマスを導入しても、分解しないプラスチックにこだわっていれば使い勝手に変化はないとみている。最終的には、CO2から作られるプラスチックに切り替えたいと考えている。
カフェもコンビニも見当たらない「ストロー発祥の地」
JR岡山駅から40分足らずのJR鴨方駅を降りると、シバセ工業本社まで徒歩5分で行ける。何も言われなければ、ここが「ストロー発祥の地」であるとは誰も気付かないだろう。周辺には記念碑も何もないのだ。
本社がある浅口は人口3万人強の地方都市。岡山・倉敷と広島・福山の両市に挟まれたベッドタウンとして機能しており、大都会の喧騒とは無縁の土地柄だ。
同社取材時に私は予定より30分早く鴨方駅に到着し、同行していた編集者兼カメラマンに「お茶でも飲みながら打ち合わせしよう」と提案。ところが、周辺にはカフェもコンビニも見当たらず、途方に暮れてしまった。
脱プラ運動は巨大なうねりになって世界に広がっており、日本でも2020年からレジ袋の有料化がスタートしている。そのようなうねりに対抗しようとしているのが地方の町工場であるわけだ。