「うちはプラスチックストローだけです」

沿岸地帯で重化学工業が発達する瀬戸内海も、歴史的に海洋汚染に振り回されてきた。高度経済成長期に産業排水が流入して、プランクトンが大量発生して赤潮が頻発。魚の漁獲高は急減し、海水浴客は消え去るなどで、「瀕死の海」という呼び方が広がった。

だが、半世紀を経て水質は大きく改善し、今では赤潮は発生しなくなっている。行政主導で排水規制が強化されたうえ、大規模なカキ養殖が進んだためだ。プランクトンを食べるカキには浄水能力が備わっている。人間が手を加えることで海がよみがえる「里海資本主義」という言葉も生まれた。

工業化と環境保護のはざまで揺れ続けてきた瀬戸内。歴史的必然なのか、脱プラ運動とも無縁でいられなかった。

その筆頭格がプラスチックストロー生産・販売の瀬戸内企業、シバセ工業だ。実際、脱プラの象徴として紙ストローに注目が集まると、「紙ストローはありませんか?」「環境対応のストローはありませんか?」といった問い合わせが相次いだ。

磯田は全く動じなかった。「うちはプラスチックストローだけです。紙ストローがご要望なら他社を探してください」と言い、会社としての基本方針を貫いた。

タピオカブーム到来、自社の技術に救われる

翌年になると紙ストローの問い合わせは一切来なくなった。シバセ工業は潜在的な市場を取り逃がしたのではないのか。脱プラの流れに乗って紙ストローなどの代替品市場を開拓するチャンスを逸したのではないのか。

そんな展開にはならなかった。多くの顧客が「紙ストローは高コストで採算が取れない」と言って戻ってきたばかりか、プラスチックストローの販売が逆に大きく伸びた。タピオカティーがブームになり、タピオカストローの需要が急増したためだ。

シバセ工業が生産している口径10mm以上のタピオカストロー
撮影=プレジデントオンライン編集部
シバセ工業が生産している口径10mm以上のタピオカストロー

タピオカストローは特別仕様だ。細過ぎればタピオカの粒が途中で詰まってしまうし、太過ぎればミルクティーばかりが口の中に入ってしまう。食材に合わせたサイズが不可欠であり、日本国内で対応できるシバセ工業に発注が舞い込んだ。

ただ、タピオカティーのブームは一過性であり、脱プラ運動が鎮静化したわけではなかった。