愛される秘訣は、それまでになかったヒーロー像
イギリスとアメリカで刊行されているカルチャー誌のデン・オブ・ギークは、スーパー戦隊シリーズが「ポップカルチャー界の比類なき伝承を作り出してきた」と述べ、絶えず変化を続け、毎年のように新たな戦隊チームを世に放ってきた戦隊シリーズに大きな賛辞を贈っている。
アメリカでは当時、スパイダーマンなど孤独に戦うヒーローが主流だった。これに対してパワーレンジャーは、メンバーの強みと弱み、チーム内での立ち位置や、新加入にチーム離脱といったイベントを盛り込み、より複雑なストーリー展開で魅せる。
今でこそマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)など複数ヒーローの共闘が定着しているが、90年代前半のアメリカにおいて、チームで戦うヒーローは新鮮な存在だったようだ。
勧善懲悪に徹しないコミカルな展開も愛される理由の一つだ。
例として、1996年から放送された『激走戦隊カーレンジャー』のワンシーンでは、リーダーであるレッドの操るクルマが敵役と激しいカーチェイスを展開。崖際に追い詰められたレッドは高速走行のさなか、真面目な性分が出たのか、あろうことか操作マニュアルを熟読しはじめる。マニュアル記載のボタンを意気揚々と押すと、車両後部が開き、合体前の巨大な頭部が出現。シュールな光景で敵役を圧倒した。
デン・オブ・ギークも、コミカルなシーンは回を追うごとに増えていったと述べている。ヒーローたちと敵役の軽妙な掛け合いは、シリーズの魅力のひとつになっているようだ。
なぜスーパー戦隊シリーズは5人なのか
複数人で戦うスタイルが日本で誕生した背景には、2つの理由がある。
1つ目はストーリー上の必然性だ。Netflixの『ボクらを作ったオモチャたち』によると、それまで東映が得意としてきた仮面ライダーシリーズをも上回る強大な怪人を登場させるにあたり、それと戦うヒーロー側にも説得力のあるパワーが求められたという。ここからチームという発想に至ったようだ。
2つ目はビジネス上の理由だ。東映はスーパー戦隊シリーズにおいて、バンダイと強力なパートナーシップを築いていた。東映側に戦隊シリーズの武器やロボットのデザイナーはおらず、バンダイが設計を手掛けているほどだという。
代わりにバンダイ側はおもちゃの売り上げで利潤を得ているが、ヒーローが1人きりでは、売れるおもちゃにも限界がある。そこで、カラーリングを分けた5人チームとすることで、より多くのフィギュアの販売が見込めるようになった。
ある意味でビジネス上の必然性から生まれたチーム戦の設定が、結果としてはアメリカで新鮮味を放つきっかけとなったようだ。