今回のクレディ・スイス破綻に、リーマンショックのときのように連鎖する要素は少ない。あくまでもクレディ・スイス自体の問題である。

ただ、過去の金融危機は市場が冷静さを欠いたことから起きたものも多い。世界を代表する名門銀行が吹っ飛んだのだから、預金者が不安になって取り付け騒ぎに発展するリスクはあった。古いタイプの金融危機である。

それを防いだのはスイス政府だ。時間をかければ、クレディ・スイスの買収に手を挙げる金融機関はあっただろう。たとえば中国の国策銀行は色気を持っていたとしてもおかしくない。しかし、政府は電撃でUBSに買収させた。一日遅れて20日月曜日の朝になれば、アジア市場が開くからだ。

ひとまずは政府のファインプレー

政府はUBSが買収しやすいように、UBSに一定額の損失が出た場合に90億スイスフラン(約1兆2780億円)の保証を約束し、最大1000億スイスフラン(約14兆2000億円)の流動性支援融資を行うと表明した。危機のときは思い切りやったほうが市場の動揺を抑えられる。今後、世界金融危機が起きる可能性はゼロではないが、ひとまずは政府のファインプレーだ。

ただし、今も火種は残っている。政府は今回の買収合意に合わせて、クレディ・スイスが発行していた「AT1債」を完全に償却すると発表した。完全に償却とは無価値になるということ。AT1債を持っていた富裕層は大損害だ。石橋をたたいて渡らない、といわれる三菱UFJも投資銀行業務を三菱UFJモルガン・スタンレー証券でやっているが、そこが大量のAT1債を日本の富裕層に販売して被害が広がっていることが明るみに出た。

普通の社債に比べてリスクが高いAT1債を購入した富裕層の自業自得という見方もできるが、問題は本来真っ先に損失を被るべき株主の保護が優先されたことだろう。クレディ・スイス最大の株主はサウジ・ナショナル銀行。オイルマネーに屈した形だ。

今後、AT1債の保有者からは訴訟を起こされるだろう。また、スイス国民も手厚すぎる保証を一夜にして決めた政府に黙ってはいまい。結局、巨大銀行の破綻は誰かが割りを食うのだが、その全貌はこれからの展開にかかっている。事と次第によってはモルガン・グレンフェルという英国の投資銀行を買収したドイツ銀行がクレディ・スイスと同じ体質になっているので、そこに波及しないか、その巨大さゆえに皆が息を潜めて見守っている。

(構成=村上 敬 写真=時事通信フォト)
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