シリコンバレー銀行は一気に経営危機に

なぜ金利を引き上げたらシリコンバレー銀行が破綻したのか。アメリカはインフレ抑制のため、2022年3月に政策金利を0.25%から引き上げ始め、23年3月時点で政策金利は5.00%だ。一年で大幅な利上げをしたことがわかる。金利を上げると他国からお金が流れ込む。市場に溢れたお金は一般的に不動産か、株式か、債券に向かう。ただ、不動産投資は借金を伴うケースが多く、金利が高すぎると下火になる。株式市場も金融の引き締め局面では相場が低調にならざるをえず、上場投資信託(ETF)からの資金流出が続くなど、勢いを失っている。

不動産や株で運用することが難しければ、残るのは債券だ。しかし、比較的安全といわれる米国債も金利急上昇でついに暴落。顧客から預かっていたお金を米国債で運用していたシリコンバレー銀行は一気に経営危機に陥った。

なぜシリコンバレー銀行は米国債で運用していたのか。銀行には「預金」「決済」「運用」の3つの機能がある。顧客から預金を集め、そのお金を送金して手数料を取り、お金が必要な会社や人に融資して利益を得るわけだ。シリコンバレー銀行は預金と決済の機能があったが、運用の機能が弱かった。

シリコンバレーの投資家たちは、ベンチャー企業が人を雇ってサービスを開発する前にまずお金を投資する。ただ、お金がじゃぶじゃぶ集まっても、すぐには使い道がない。そこでベンチャー企業はシリコンバレー銀行に預ける。ベンチャー企業が金余りということは、銀行側から見れば融資先がなくなる。シリコンバレー銀行が米国債で運用していたのはそのためである。

企業が金余りでも、伝統的な銀行のように法人営業部隊があれば融資を求める会社を開拓できただろう。しかし、新興銀行に融資に強い人材はいない。「人材に経費をかけるくらいなら米国債を買う」と安易に考えたことが今回の破綻につながったのだ。

日本でも1990年代後半に銀行の破綻が相次いだ。北海道拓殖銀行、北海道銀行、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行。これらはすべて融資先がひっくり返って行き詰まった。つまり運用の失敗だ。今回のアメリカの銀行破綻は運用の成否以前に、そもそも運用をする力がなかったことが原因だ。

パウエル議長は、銀行に基本的な能力に欠けているところがあるとは想像していなかったのだろう。実態を把握せずにマクロ経済だけを見て金利を上げ続けたのは失策である。