また4月12日の日経新聞のインタビューで三菱UFJFGの関浩之・市場事業本部長は「現在買い控えている10年物国債はイールド・カーブの形状などによるが、利回りが0.8%以上の水準になれば徐々に投資の検討を始める」とお答えになっている。
植田総裁が(齊藤教授がおっしゃるところの)「どうにかこうにか全乗客の無事を見通すことができる不時着陸」を想定しているのは、この前提、すなわち「10年金利は上昇してもせいぜい1%」との前提に立脚しているからだと思う。
たしかに長期金利の上昇が1%程度で収まるのなら、私もそれほど悲惨な状況になるとは思わない。
しかし、何度も修羅場をかいくぐってきた私には、この前提はとんでもない楽観論であり単なる願望でしかないと思える。私は日銀がYCCを完全撤廃したら長期金利は1998年のロシア危機並みに上昇すると思っている(私の記憶では当時、ロシアの長期金利は80%程度に達した。これはタイポではない)。
このレートが出現したのはロシアの財政破綻が囁かれていた1998年で、前出のジュリアン・ロバートソン氏率いるタイガーファンドが多額の損失を出し、その損失を利の乗っているドルを売って対応した時のことである。
おかげで私も保有していたドルのロングポジションに大きな損失を被り、巻き添えを食ったのでよく覚えている。
長期金利が1%で収まるはずがない
YCCを放棄したら長期金利1%で収まらない。その理由は3つある。
第一に、理論面から見ていきたい。以下はオーソドックスな金融論における名目長期金利の公式だ。
YCCを解除したら、国のデフォルト(債務不履行)の確率はかなり上がるはずだ。期待インフレ率も2%くらいにはなっているだろう。実質長期金利がプラスだと仮定すればどう考えても名目金利が1%でとどまることはあり得ない。
国債を買い支えているのは日銀
第二の理由は需給の関係だ。私が尊敬する山本謙三元日銀理事のレポート「金融経済イニシアティブ」の指摘を見てほしい。
「日銀の国債保有残高は、13年4月から23年1月までの9年10カ月で、約458兆円増加した。この間、政府の新規国債発行額も多額にのぼった。13年度から22年度(第二次補正後)までの10年間の新規国債発行額(年金特例債、復興債を含む)は、合計約492兆円にのぼる。すなわち、日銀は、新規国債発行の93%に当たる金額を市中から買い入れたことになる。10年間の財政赤字を、ほぼ丸ごと呑み込んだ計算だ」
山本さんの分析は新発債に焦点をあてているが、私は参議院議員だった時、財政金融委員会で雨宮日銀副総裁(当時)に新発債と借換債を合計した発行額に対して日銀はどのくらい購入しているのかを聞いたことがある。