逆進的で貧しい人ほど負担が大きい

しかも、日本の農業保護は、消費者負担の割合が圧倒的に高いという特徴がある。

各国のPSEの内訳をみると、農業保護のうち消費者負担の部分の割合は、2021年ではアメリカ4%、EU13%、日本76%(約4兆円)となっている。欧米が価格支持から直接支払いへ政策を変更しているのに、日本の農業保護は依然価格支持中心だ。国内価格が国際価格を大きく上回るため、輸入品にも高関税をかけなければならなくなる。

図表=OECD “Agricultural Policy Monitoring and Evaluation 2020”より筆者作成

最近の食料品価格の上昇で、生活困窮者の人たちのためのフードバンクに食料が集まらなくなっている。今の食料品価格では満足に食料を買えない人たちがいる。それなのに、牛乳の値段をもっと上げろという酪農家の声の方が強く響く。

生乳を廃棄したり減産したりしている。しかし、過剰なら価格が下がるはずなのに、乳価は上がる一方で、2006年に比べ5割も高い。今年も、欧米の3倍もする乳価をさらに上げようとしている。脱脂粉乳の過剰在庫が増加しているというが、過剰なのに価格は下がらない。下げると脱脂粉乳を原料とする加工乳の価格が下がって、飲用乳や乳価も下がるからだ。国民は納税者として多額の補助金を酪農に支払っているのに、消費者として価格低下の利益を受けることはない。円安になった今でも、日本の飲用牛乳の値段はアメリカの倍もしている。

農業も消費者も守れる方法がある

日本の場合は、消費者は国産農産物の高い価格を維持するために、輸入農産物に対して高い関税を負担している(小麦や牛肉など)。

これまで、消費量の14%しかない国産小麦の高い価格を守るために、86%の外国産小麦についても関税(正確には農林水産省が徴収する課徴金)を課して、消費者に高いパンやうどんを買わせてきた。

これを国内農産物価格と国際価格との差を財政からの直接支払いで補塡ほてんするという政策変更を行えば、消費者にとっては、国内産だけでなく外国産農産物の消費者負担までなくなるという大きなメリットが生じる。農業に対する保護は同じで国民消費者の負担を減ずることができるのだ。

図版=筆者作成