「数学I・A」を受験の必須科目にして受験生が離れる
毎年、早稲田大の総合パンフレットのトップには政経学部が紹介されている。開学当初からスタートした看板という自負があるからだろう。私立大学文系学部では難易度がもっとも高い。長年、受験生からすればあこがれの存在である「早稲田の政経」の志願者数が、2020年代に入って千人単位で減っている。2020年7811人、21年5669人、22年4872人といった具合だ。おだやかではない。
半世紀近く10万人以上集めた早稲田、そして看板学部に何が起こったのか。人気がなくなったのだろうか。いや、そんなことはない。事情をよく知る者にすれば、まったく逆の見方がなされている。
早稲田大政経学部が志願者数を減らしたのは、2021年から同学部で受験科目に「数学I・A」を必須としたからに尽きる。英国社の3教科型私立文系志望の受験生がどっと離れた。政経学部では、数学を課したことについて、経済学は計量経済やゲーム理論など、政治学でも統計学で数学の知識が必要になるから、という旨を説明している。
数学必須で志願者が減ったが、ブランド力は健在だった。いや、復活したといったほうがいい。
ダブル合格しても早稲田が選ばれるようになった
大手予備校によれば、早稲田大と慶應義塾大の両方に合格したとき、2000年代、2010年代はほとんどの学部で慶應義塾大を選ぶ受験生が多かった。ところが、2020年代に入って変わった。東進ハイスクールの調査によれば、慶應・法、早稲田・政経にダブル合格した受験生の進学先について、2018年は慶應・法が71.4%だった。しかし、2021年になると早稲田・政経71.4%となり正反対になっている。
早稲田人気にはさまざまな要因が考えられる。予備校関係者は、2021年からの数学必須で私大文系型志望者層のかわりに国立大学志望者が受けやすくなり、東京大、一橋大との併願者が増えた。こうした層は金融や商社を多く輩出する慶應より、国家公務員、コンサルタント、金融にも強い早稲田を選んだ、という見方を示す。2022年、政経学部のおもな進路は三菱UFJ銀行14人、PwCコンサルティング14人、アクセンチュア8人、三菱商事6人、国家公務員総合職5人などとなっている。
また、教育改革への評価も早稲田には追い風となったようだ。早稲田は日本語と英語で科目を提供する「ハイブリッド型教育」の導入、留学プログラムの充実など、グローバル化に力を入れていることが、受験生からの高い評価につながっている。慶應のほうが教育改革は早くから取り組んでいたが、最近ではやや新鮮味に欠けると思われているようだ。