小さい頃から資格を集め「ポートフォリオ」を作成

しかし、前述したように、AO入試のような制度であるDSAを利用する場合にも、PSLEは受験する必要があり、自分の子がDSAで合格するかは、結果が出るまで不透明であることから、大半の親は、先に述べたように、DSAの利用を検討する場合も、PSLA対策と両にらみの戦略を立てている。

小さい頃から資格を集め、大人のLinkedInも顔負けの「ポートフォリオ」を作る親子もいる。アプリケーションフォームは字数が限られているために、そこにURLを張り付けるためのウェブサイトを作成するエージェントまで登場しているという。

一方で、あるマレー系シンガポール人の夫婦は、夫が元サッカー選手で、自分の子どももサッカー推薦での受験を考えたが、家から学校への距離が遠かったことなどから、結局、DSAの利用を断念している。

結局、入試の多様化は、学校に合わせて引っ越しできる層や、お金をかけられる層に有利になっている側面がある。

放課後のスポーツや文化的活動も、点数稼ぎのため

このような状況について、ソーシャルワーカーの60代男性エリオットさん(仮名)は、「ぼくたちが子どもの頃は、夕方、近所の子どもたちや親戚同士、色々な学年の子どもたちが遊んでいて、サッカーもさかんだった」と寂しそうな顔を見せる。

写真=iStock.com/FatCamera
※写真はイメージです

彼は、ふと私に「サッカーの代表戦を見たことあるか?」と聞いた。新型コロナが流行する前に一度、スタジアムにシンガポール代表の試合を見に行ったことがあるので、「あります」と答えた。

スタジアムで、私は、シンガポールでこれまで見たこともない割合のマレー系の観客に驚いた。普段、街中を飛び交っているのは、英語と中国語が多いが、皆、マレー語で応援している。選手もほとんどがマレー系だからだ。

自分自身も中華系のエリオットさんは、「代表戦を見たら分かると思うが、中華系の子どもたちはサッカーはしない。勉強に忙しくて時間がないから。それで、すごく小さいセグメントの人しかサッカーをしないから、試合に勝てない」と失望したように続けた。

そう言うエリオットさんの子どもたちや、ソーシャルワーカーとして見ている相対的に貧困な層の子どもたちも、外では遊ばないという。

エリオットさんは、放課後のスポーツや音楽などの活動であるCCA(Co-Curricular Activities)について触れ、「CCAだのなんだので、学校にいる時間が長くなっている」からだという。

「CCAで好きなスポーツができればいいのでは? サッカーもあるのでは?」と聞くと、エリオットさんは、「ぼくらの時代は楽しくてやっていたけど、今はどうかな。ポイント稼ぎで、学校のシステムがあれやれこれやれと言ってくるからやってるだけなんじゃないか。すべてが手段化していて、合理的すぎる」と大きなため息をついた。