繰り返す「動機」がまったく違う

たとえば、ASDの人のなかにも、長い時間かけて手を洗い続ける人がいます。ただし、この場合は、汚れが落ちていないような不安に駆られているのではありません。自分で決めた手洗いの手順があり、その手順通りにやらないと気が済まないのです。つまり、手の汚れではなく、手順にこだわっているということです。

ですから、ASDの人の場合、「食事の支度ができているから、今日は手洗いを早めに済ませよう」というような臨機応変な対応ができません。状況に応じて、手順を変えたり、時間を短縮させたりすることが難しいのです。そうした“こだわり行動”が、傍目には、強迫行為と似て見えてしまう場合があります。

しかし、両者の違いははっきりしています。強迫性障害の人は、自分でもやめたいけれどやめられないのですが、ASDの人はやめる気などさらさらありません。ASDの人にとって“こだわり行動”は、意味のある行動であり、やめる理由がないからです。

他者との関りを避けようとする

3.社交不安障害

「社交不安障害」は、かつてよく話題にされた“対人恐怖症”とほぼ同義で、自分が他人からどう見られるか、どう思われるかを過度に心配することで、人と会ったり、人前に出たりするたびに、動悸や発汗、震え、パニック発作などの症状が生じる疾患です。こうした症状が繰り返し起こることで日常生活に支障をきたし、症状を避けようとして、人と会うことを避けたり、外出をしなくなったりするようになります。

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社交場面を避けようとする社交不安障害の症状が、他者と積極的にコミュニケーションをとろうとしないASDの症状と似て見える場合があります。確かに、他人との関わりを避けようとする症状だけに着目すると、両者は似ているのですが、その本質はまったく異なっています。

社交不安障害の場合、人からどう見られるかを気にしすぎるために人づきあいができなくなるものであり、過剰な自意識がベースにあります。これに対し、ASDは、むしろ自意識がなさすぎるといってもよく、人からどう見られるかがまったく気にならず、他人に関心が向かないのが特徴といえます。障害の根底にある心理は正反対といってもよいでしょう。

また、社交不安障害が、他者を意識し始める思春期頃から発症し始めるのに対し、ASDは生まれつきの障害であり、幼少の頃から他者への無関心が顕著です。発症のタイミングを振り返ることも、両者の鑑別の重要なポイントになります。