日本には「名ばかりのS席」が多すぎる

そもそもS席とはなんなのだろうか。

通常、コンサートや演劇の会場ではS席、A席、B席などの席種が設けられる。さらにSS席が設定される場合もある。大きなスクリーンを観る映画とは異なり、座席の位置はかなり重要だ。映画館では通常、席種がないことからも明らかだ。席種は当然、主催者側が決める。

S席のSは、「スペシャル」の略。だが、日本国内ではやたらS席が多い劇場や、全席S席というコンサートも見かけることがある。

ステージから遠いとか、構造上ステージが見にくいなどの理由で安い価格の席種が設けられるが、こうした席がS席に含まれる場合もある。まさに「名ばかりのS席」なのだ。これに違和感を覚えたことのある消費者も多いのではないだろうか。

日本にはS席が多すぎる。「名ばかりのS席」ばかりだ――。こうした問題提起をするためには、実際の公演を見てもらえれば一目でわかる。

例えば、東京・日比谷の帝国劇場で行われた「KINGDOM」2月公演。席種はS席、A席、B席の3ランクあるが、席数の半数以上が最上級グレードのS席だ。価格はS席1万5000円、A席1万円、B席5000円で最大3倍の開きがある。

総座席数の61%がS席だった

同劇場の総座席数は1826席。そのうちS席は1121席、A席は497席、B席は208席で、S席の割合は61%ほどになる。日本の多くの劇場と同じように、左右の差はなく、ステージとの距離、フロア(階数)で分ける考え方がとられている。

出典;東宝演劇サイトより

1階の18列目まではすべてS席、その後ろの19~24列はA席だ。2階は5列目まではS席、6~8列はA席、その後ろの9~13列がB席だ。

帝劇はかなりの大劇場で、左右も広い。奮発してS席を購入し、いい席で音楽や演劇を楽しもうと期待しても、実際はA席と変わらないということもよくある。

例えば、2階5列目の一番端はS席であるが、6列目は中央でもA席になっている。5000円の差があるが、6列目中央のA席の方がはるかに見やすいだろう。S席を購入した客がかわいそうである。

B席より観劇しづらかったA席への疑問

帝劇の1階席は傾斜が緩やかで、特に後列の席だと前の客の頭でステージが見えにくくなる。これは歌舞伎座や新橋演舞場、大阪の松竹座、京都の南座なども同様である。

これらには花道があり、昔の芝居小屋の一階は平土間であった影響であろう。そういう座席であっても多くがS席(1等席)とされ、客は決して安くないチケット代を支払わなければならないのだ。