円安がすぐに改善される見通しはしづらい

その上、昨年12月上旬以降、ゼロコロナ政策の終了に伴い中国経済の持ち直し期待は急速に高まった。期待先行で原油、銅、鉄鉱石など中国経済の先行き予想を機敏に反映する商品の価格は上昇した。中国経済の持ち直しには時間がかかるとみられるものの、商品市況の上昇はわが国の物価上昇リスクを高める要素になりうる。

米国では、想定された以上に労働市場が過熱気味に推移している。連邦準備制度理事会(FRB)は金融引き締めを続け、インフレの鎮静化に取り組まなければならない。一方、4月以降、日銀は慎重に異次元緩和の修正を進めるものと予想される。ただ、それには時間がかかる。目先、日米の金利差は一段と拡大しやすい。昨年10月中旬にかけてのような急激な円安の進行は想定しづらいものの、短期的に円の為替レートの変化は輸入物価を押し上げる要因になるだろう。

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9月までに物価が下がり、賃金が上がるとは思えない

9月に政府による電力料金などの負担軽減策は期限を迎える。現在の世界経済の状況を基に考えると、9月までにわが国の物価上昇ペースが大きく低下する展開は予想しづらい。むしろ、目先、光熱水道費や食品などを中心に物価はまだ上昇、あるいは高止まりし、家計への打撃は大きくなりやすいと懸念される。

その後、どこかのタイミングで物価はピークアウトし、上昇ペースは鈍化するだろう。なお、1月に日銀が公表した経済・物価情勢の展望(展望レポート)では、消費者物価指数(除く生鮮食品)の上昇率は2023年度が1.6%、2024年度は1.8%との予想が示された。2021年度の実績(0.1%)に比べ、中期的に幾分か物価は高止まりした状況が続きやすい。

一方、毎月勤労統計のデータを確認すると、1997年度以降、年度平均でみた“現金給与総額”の伸び率は0%近傍で推移してきた。“所定内給与(基本給に諸手当を加えた給与)”の上昇ペースも停滞している。わが国の多くの家計において、賃金は増えづらいという記憶は時間の経過とともに強まっているだろう。国内企業が直面するコストプッシュ圧力、中長期的な経済成長期待の持ちづらさなどを背景に、持続的に所定内給与が増加する展開も期待しづらい。