老化を促進する成分が作用している可能性がある
牛乳に含まれる乳糖は、ブドウ糖とガラクトースからできている。このガラクトースが問題なのである。たとえば、マウスにガラクトースを連続して注入する、あるいは、エサとして大量に摂取させると、酸化ストレスが増し、炎症が起こり、結果として、老化が進む。これは事実である。何しろ、ガラクトースの注入は、老化を研究する際のモデル動物の作製法になってさえいるからである(*6)。
なぜ、ガラクトースが老化を引き起こすのか?
これまでの研究から、老化は細胞内でエネルギーをつくり出すミトコンドリアという器官が働かなくなること、あるいは酸化ストレスによって老化が促進することが明らかになっている。ここにガラクトースが関係していると推測される。すなわち、ガラクトースが細胞に酸化ストレスを与え、ミトコンドリアを不活性化し、慢性炎症、神経障害、免疫力の低下を引き起こす、と。
この仮説を検証するために、マイケルソン教授のグループは、次のふたつの集団を対象に、牛乳消費量と骨折や死亡率の関係を調査した。ひとつはスウェーデンの女性集団で、マンモグラフィーによる乳がん検査の受診者6万1433人(1987~90年当時、年齢39~74歳)。もうひとつは、スウェーデンの男性集団で、4万5339人(1997年当時、年齢45~79歳)。被験者は食事内容や生活についての96項目にわたる詳細な質問に答えた。
たとえば、食べ物については、牛乳、ヨーグルト、チーズなどの乳製品を含む飲み物の消費量。生活については、身長、体重のデータが集められ、教育レベル、結婚の状況も考慮に入れられた。そしてスウェーデン政府に登録されている個人の骨折と死亡についてのデータも活用された。結果は、こうなった。
(*6)Bo-Htay CB et al. Effects of D-galactose-induced ageing on the heart and its potential interventions. J Cell Mol Med. 2018 Mar; 22 (3): 1392–1410. PMID: 29363871
骨折と死亡リスクの関係性を示す調査結果
女性集団を20年間にわたり追跡調査したところ、死者1万5541人、骨折者1万7252人、そのうち股関節(足の付け根の部分にある関節)の骨折者は4259人だった。牛乳を多く飲んでも骨折リスクは低下しなかった。その上、牛乳を1日3杯以上飲む女性(平均680ml)は、1日1杯以下の女性(平均60ml)にくらべ、死亡率が2倍になった。そして男性集団を11年間にわたって追跡調査したところ、死者1万112人、骨折者5066人、そのうち股関節の骨折者1116人だった。
女性集団ほど顕著ではないが、男性集団もまた牛乳の消費量が増えるにつれ、死亡率が高くなった。さらに分析を進めると、牛乳の摂取量が増えるにつれ、酸化ストレスと炎症のバイオマーカーであるCRP値が上昇していた。CRPはC反応性タンパクといい、血液中のCRP値が上昇すると、体に炎症が起こっていることを意味する。これは、牛乳を大量に摂取すると、酸化ストレスが増し、骨折と死亡リスクが高まるという彼らの仮説を支持する根拠となっている。