菅氏はポスト岸田に河野太郎デジタル担当相や萩生田光一政調会長らを押し立てる――そんな分析が相次いで報じられている。本当だろうか。

私の見立ては違う。菅氏はあくまでも自分自身の首相再登板を狙っている。自民党内の無派閥議員らの間でも「菅氏待望論」は盛り上がりつつある。河野氏は国民人気は高くても党内人気は低く、岸田首相が任期途中で辞任した場合の総裁選(党員投票はなく、国会議員と都道府県連代表のみが投票)に勝つのは容易でない。

萩生田氏は安倍派会長の後継レースで一歩リードしているものの、旧統一教会問題のマイナスイメージが残り、いきなり総裁選出馬は難しい。「河野氏や萩生田氏では勝てない」という見方が広がって「菅氏待望論」が醸成させていく機運をつくり出そうとしているのではないのか。

山場は広島サミット後

岸田首相は5月の広島サミットに並々ならぬ意欲を燃やしている。4月の統一地方選や衆院補選に向けて「岸田首相では戦えない」という不満が噴出しても首相の座を手放さないだろう。「岸田降ろし」の山場は広島サミットが終わった後、防衛増税の実施時期をめぐる党内論議が始まる今年夏以降だ。まだ半年以上ある。今の時点で「菅氏待望論」が広がるのは早すぎる。逆に「菅政権つぶし」の動きを誘発しかねない――そんな老獪な政局判断から「首相再登板」をいったん否定して沈静化させる狙いがあったと私はみている。

実際に「菅政権阻止」の動きは表面化しつつある。その急先鋒とみられるのが検察だ。

菅氏が安倍政権の官房長官として検察人事へ介入したのは周知の事実だ。検察捜査を次々に封じたとして「官邸の守護神」と呼ばれた黒川弘務氏を引き立て、法務省官房長→法務事務次官→東京高検検事長と検事総長コースを歩ませる一方、検察庁が検事総長に推していた同期の林真琴氏を冷遇。黒川氏の定年を延長してまで検事総長に据えようとした。

「菅vs検察」の対立が激化した土壇場で、黒川氏が新聞記者と賭け麻雀していたことが週刊誌報道で発覚し、黒川氏は辞職に追い込まれて林氏が検事総長へ就任したのだった。検察ほど菅氏の首相再登板を恐れている役所はない。

令和3年1月4日 菅内閣総理大臣記者会見(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

菅氏の復権を阻止したい検察の思惑

安倍氏が急逝した昨年7月以降、東京地検特捜部は東京五輪汚職事件に着手して電通出身の東京五輪組織委員会元理事らを逮捕・起訴した。民間人の立件だけで捜査は終結したが、「東京五輪の招致・開催に官房長官や首相として深く関わった菅氏には大きなプレッシャーになった」(岸田派関係者)のは間違いない。

特捜部は今なお電通が絡んだ東京五輪談合事件の捜査を続けている。岸田首相は東京五輪の招致・開催には関与しておらず、検察捜査は「岸田降ろし」を主導する菅氏への牽制であるという見方は根強い。