翔太郎氏の「漫遊」は帰国後、週刊新潮の報道で発覚し、世論の批判が噴出。岸田首相が長男の行動を「公務」としてかばったことでヒートアップした。さらに経産省出身の首相秘書官をLGBTQをめぐる差別発言で一発更迭しながら首相の長男はおとがめなしというダブルスタンダードを目の当たりにして霞が関の官僚たちにもしらけムードが漂い、岸田首相の求心力は急落した。

「こうして振り返ると菅氏が『岸田降ろし』の狼煙を上げたタイミングは絶妙でした。さすがは策士。官邸は翔太郎氏のパリ・ロンドンでの行動をリークした『犯人探し』に躍起です。首相秘書官の外遊先日程が漏れることはめったになく、ロジを担う外務省を疑っている。外務省は菅氏と極めて近く、菅氏の『岸田降ろし』と連動した波状攻撃を仕掛けてきたと疑心暗鬼になっています」と岸田派関係者は指摘する。

菅氏の再登板を望む外務省

外務省は安倍政権で冷遇された。安倍首相の最側近である経産省出身の今井氏や警察庁出身の北村滋氏ら「官邸官僚」が内政ばかりか外交まで牛耳り、外交安保政策の司令塔である国家安全保障局長のポストも警察庁出身の北村氏に奪われた。外務省は蚊帳の外に置かれたのである。

窮地を救ったのが菅氏だった。菅氏は安倍氏を受け継いで首相になると外務省主導の外交政策に戻し、国家安全保障局長も外務事務次官だった秋葉剛男氏に差し替えた。外務省は息を吹き返した。

外交経験が乏しい菅氏を外務省シンパに引きずり込んだのは、菅官房長官の秘書官を務めた市川恵一氏である。市川氏はその後、米国公使、北米局長とトントン拍子に出世し、今は筆頭局長の総合外交政策局長だ。大物外交官が歴任した事務次官コースである。

「菅氏の首相復帰をどこよりも望んでいるのは外務省です。市川氏は順当なら事務次官に昇進するでしょう。最大のリスクは菅色が強いこと。岸田首相が菅氏の影におびえ、人事に介入してくることを外務省は懸念しています」(外務省関係者)

本人は再登板を否定したが…

岸田首相は5月に地元広島で開催する先進7カ国(G7)サミットでホスト役を務めることに強い意欲を示している。それを取り仕切る外務省に「菅シンパ」が潜んでいて足元をすくわれることがあれば大打撃だ。翔太郎氏の情報流出元に神経を尖らせるのはそうした事情がある。たしかに「岸田降ろし」が一気に加速する気配が政界を覆っていた。

ところが、狼煙を上げた菅氏当人が一転して動きを緩めたのだ。2月1日のインターネット番組で、自らの首相再登板について「私はもうパスだ」と否定したのである。