希望してもすぐに腎移植を行えない現状

とりだい病院では腎臓には、2つの科が関わっている。1つは高田の腎臓内科、もう1つは泌尿器科である。

「腎臓内科は腎臓のスペシャリストで、基本的に腎不全になるまでを担当、移植に関しては外科手術が必要になるので泌尿器科が担当していると考えてください」

そう説明するのは、とりだい病院泌尿器科、腎センター長でもある引田克弥である。

「透析(療法)より腎移植された方が、生命予後(病気の経過が命に与える影響)がいい。食事や水分制限なども緩やかですし、生活の質が上がります。可能であれば、移植の方が望ましい」

可能であれば、と引田が言うのは、現在、透析を受けている患者は日本全国に約34万人いるのに対し、腎臓移植は年間2000例強に留まっているからだ。

腎臓移植には、亡くなった方の腎臓を使用する献腎移植と、患者の親族の腎臓を使用する生体腎移植の2種類がある。

「本来は亡くなった方から提供を頂くというのが望ましい。生体腎移植は健康な方の腎臓を片方取ることになります。そのため、どうしても提供してくださった方の腎機能が悪くなります。

日本では腎臓だけでなく他の臓器も含めて提供してくださる脳死、あるいは心停止のドナーの方の数が少ない。そのため、献腎移植をご希望されても、かなりの待機期間があり、すぐに移植を行えないのが現状です」

心臓が止まり、血液が流れなくなれば腎臓の組織は壊死する。心臓マッサージ、カテーテルで体内に還流液を注入しながらの移植手術となり、時間的、技術的な難度は高い。日本において献腎移植の割合は約1〜2割程度。残りは生体腎移植である。

生体腎移植のドナーの基本的条件として、提供希望の方の腎機能が良いことや、治癒していないがんが無いこと、活動性の感染症が無いこと等に加え、「6親等以内の血族、配偶者」「3親等以内の姻族」であること等がある。さらに第三者による自己意思による提供であることの確認、年齢制限もある。

「血液型が違ってもさまざまな術前処置を行うことで、現在大きな問題にならないことが多くなっています。(移植手術のうち)約半数の方が血液型の違うドナー。ドナーの腎機能が問題なく、感染症に感染していないこと、そしてHLA(ヒト白血球抗原)の組み合わせが極端に悪くなければ移植可能となることが多いです」

腎移植は「慎重に」「用意周到」が絶対

移植を受ける側にも条件がある。

「感染症がないこと、がんに罹患りかんしていないこと。移植の際、拒絶反応を防ぐために免疫を抑えなければならない。もしがんに罹っていると一気に広がってしまうんです。とりだい病院の場合ならば、胃がん、肺がん、肝臓がん、腎がん、大腸がん、膀胱がんがないか。

また女性ならば子宮がん、卵巣がん、男性ならば前立腺がんなどすべて調べます。また、眼科や耳鼻科、歯科でも検査します。透析治療を受けている患者さんは、動脈硬化が起きていることもあります。心臓の機能も含めて手術に耐えられるかどうかもチェックしなければならない」

どんなに詰め込んでも、2、3カ月はかかりますねと引田は付け加えた。

慎重に、そして用意周到な準備が必要なのは、絶対に安全に終わらせなければならないからだと強調する。

「透析治療を続けていれば、すぐに亡くなってしまうということはない。長期的には生命予後が伸びますが、それ以外にも移植手術は患者さんの生活の質を高めることが大きな目的とも言えます。

そのためレシピエント(移植を受けられる方)、ドナー双方に不利益を与えることがあっては絶対にならないんです」