砂漠地帯にぽつんと位置するこの町は、はるか地平線まで土と低木ばかりが続く田舎町だ。ボーリング社の技術者が訪れたなら、渋滞を解決することよりも、解決すべき渋滞を探す方がずっと難しいことに気づくだろう。どういうわけかマスク氏はこの町に白羽の矢を立て、シールドマシンを持ち込んだ。
秘密はどうやら、その位置にありそうだ。地図を広げ、ロサンゼルス中心部とラスベガスに定規を当てれば、その途中点にピタリとこの町が乗る。
ロサンゼルス、アデラント、ラスベガス。マスク氏の地下計画が進む3つの地点が、直線上に並ぶ――。偶然にしては出来すぎている。
2020年秋ごろ、それまであまり知られていなかったアデラントの試掘現場の存在が報じられると、ボーリング社が都市間を結ぶ地下網を計画しているのではないかとの観測がにわかに流れた。
ロサンゼルスからアデラントを抜け、ラスベガスに至る約370キロを、将来的に地下の高速ネットワークで結ぼうとしていた可能性がある。マスク氏関連企業の動向を報じるテスラ・ラティは2020年、ラスベガスの地下網計画を説明する資料のトンネル終端に、「ロサンゼルスへ」の記載があることを発見している。
アデラントは当時、ボーリング社の拠点に選ばれたことを大いに誇った。だが、その後大規模な計画は何ら発表されず、いまでは誰も通ることのない試掘トンネルがむなしく残るのみだ。
ボーリング社は地元自治体に壮大なプランを持ちかけ、いざ入札となると姿を消す悪癖がある。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、同社が「アメリカじゅうの都市」の交通網整備に参加意思を見せながら、無言で連絡を絶っていると報じている。
路面電車よりも安価に敷設できると豪語していたが…
記事によると同社は数年前、ロサンゼルス中心部から60キロほどの地点に位置するオンタリオ国際空港の交通計画への参入を試みた。
空港から6キロほど先の駅までを結ぶ必要があったが、原案である次世代型路面電車(LRT)計画では10億ドル以上の費用が見込まれていた。そこへマスク氏がふらりと姿を現し、自動運転のEVをトンネルに流せばわずか4500万ドルで完成できると耳打ちしたのだ。
郡交通局は20分の1以下という提示額に魅了され、マスク氏の打診に心酔した。ところが、2022年1月の期限を過ぎても、ボーリング社が入札を行うことはなかった。
マスク氏の計画に関与した経験があるという複数の政府関係者は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に対し、ボーリング社は渋滞解決を大々的に公約しておきながら、いざ検討が進みインフラ建設の現実的な課題が見えてくると、途端に手を引くと指摘している。