「おもてなし」に対する価値観も変化している

結局、Aさんの結婚式では、食事が終わる頃に司会者から残ったお料理は持ち帰りができることがアナウンスされました。最終的にはウエディングプランナーが「招待状にタッパーのことを入れてしまうと、『残り物が出るような料理なの?』とも思われかねません」と伝え、持ち帰り用に紙製のコンテナを準備することで納得していただいたのです。

今回の件を通して、「おもてなし」に対する価値観の変化を改めて感じました。これまでウエディングに限らず、セレモニーのサービスでは「食事が余ることの問題よりも、足りない方が失礼」という感覚がありました。

ところが、フードロスをはじめ、SDGsを意識することが当たり前の世代にとって、食べ物を残して帰ることは嫌な気持ちになることであり、ゲストにフードロスに対する罪悪感を持たせないようにすることも「おもてなし」なのです。

背景には食糧危機や物価高が問題になっていることはもちろん、今の新郎新婦の30代のコスト感覚の変化があります。「結婚式にお金がかかったが、いただいたご祝儀で大幅に黒字になった」というケースが少なくなかった時代もありました。

写真=iStock.com/zepp1969
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しかしコロナ禍以降、招待客が減ったこと、親戚中がお祝いを贈るケースが減ったことなどもあり、費用に余裕がある披露宴は減っています。以前のように親が費用を援助するケースも少なくなり、新郎新婦の給与も減っていることなどもあって、招待する側にとっての「1名分の料理の重み」は以前とは違います。そういう意味でも「自分たちが一生懸命選んだ特別な料理でおもてなししたい」という気持ちが強く、だからこそ「大切に食べてほしい」のです。

価値観の変化はビジネスチャンス

これはウエディング業界だけに起きていることではありません。Aさんのようなお客様が出てきた時、「新しい感覚の人が出てきて、常識外れのことを言っている」と捉えるか、「時代を考えれば、そういうお客様が出てきても当然だ」と捉えるかで、その企業の未来は変わるのではないでしょうか。

実際、この話をすると、否定的な意見が多く、特に仕事の経験値が高い人ほど「そんなことはできない」「マナー違反ではないか」という反応でした。「お料理は持って帰れないもの」という決めつけが強く、前例のないことに対する想像力が足りないと感じます。

今回は紙製のコンテナで対応しましたが、ウエディングの世界観を壊さずに解決する方法はあるはずです。例えば松花堂弁当の容器のようなイメージで、1品ずつが分かれているものを使う方法もあるでしょう。引き出物の1つを品のいい持ち帰り容器にしてもいいかもしれません。

こうした世代の感覚を捉えて、新しい事業を始めている会社もあります。ある大手の衣装会社では、セカンドハンドドレス(中古のドレス)のリメイク事業をスタート。5〜6着の古いドレスを丁寧に解体して1着の新しいドレスを作る、子供用のドレスにするなどさまざまですが、セカンドハンドだからといって安さを売りにするわけではなく、デザインや縫製の工夫によって新品と変わらない価格を維持する努力をしています。

今どきの若者は決して常識を逸脱しているのではなく、社会のこと、未来のことを真面目に考えています。だからこそ、その発言や行動の本質に気づき、ポジティブに対応できる企業が生き残っていくはずです。

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