一シーズンに一度、存命の作曲家の作品を作曲家と共に演奏し定期演奏会を作り上げてきた伝統はあるものの、映画音楽でのそれは前代未聞だったからだ。ウィリアムズが楽友協会に現れると、世界中からやってきた映画ファンが押しかけ、ホールの楽屋口には出待ち、入り待ちの人々が殺到。コンサート開始の際も、指揮者でもあるウィリアムズがステージに上がるために歩いてきただけで、満場のスタンディングオベーションとなり、観客はそれぞれスマートフォンでその登場を撮影し、SNSにアップしていた。

こうしたことは通常のクラシック音楽の演奏会では見られない。いつもと違う客層で埋まったホールは異様な熱気に包まれた。このときに録音されたライブアルバム「ジョン・ウィリアムズ ライブ・イン・ウィーン」はドイツ・グラモフォンから発売され、その年のクラシック音楽アルバムの売り上げ1位を獲得、日本ゴールドディスク大賞クラシック・アルバム・オブ・ザ・イヤーにも選ばれている。

3年で退任してしまったが、功績は大きかった

その他にもニューイヤーコンサートの衣装「ザ・フィルハーモニックスーツ」の制作など、さまざま改革を推し進めたグロスバウアーだったが、残念ながらこれらの改革を一気に推し進めた変革の性急さや突出した支出増などで楽団員の不満が噴出し、わずか3年で楽団長の交代を余儀なくされている。任期は3年だったが、2年目に行なわれた選挙で次期交代が確定したので、実質的には1年半程度しか楽団長として認められていなかったことになる。

渋谷ゆう子『ウィーン・フィルの哲学 至高の楽団はなぜ経営母体を持たないのか』(NHK出版新書)

性急で斬新な改革に他の団員、特に年長奏者らからの拒否反応が強かった。次に選ばれた楽団長フロシャウアーは選挙での勝利の後で、「我々に必要なのは改革ではなく、伝統的な配慮だ」と取材に答えている。「衣装や見栄えや新しい時代にばかり目を向ける以上に、守るべきことがあり、時間をかけるべきことは他にある」。グロスバウアーをそう痛烈に批判し、舵を切り直した。

その言葉のとおり、現運営陣の手法は超保守に転じたと言えるだろう。指揮者選定やプログラムの立て方など、確かにそれは一時代前と似通ったものになった。原点回帰といえば聞こえはいいが、一方で目新しさがないと言われれば否定できない。

時代に合わせて改革を半ば強引に、そして一気に推し進めたグロスバウアーがいたからこそ、ウィーン・フィルの評価が高まったことは間違いない。時代が変化する以上、その時代に沿った方法があり、変化しない組織は取り残される。その意味では、ウィーン・フィルには時代ごとに必要な楽団長が現れていると言えるだろう。

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