だから戦争もパンデミックも乗り越えられた

実はこれまでに何度か、他の楽団のように事務局を設置し、奏者は演奏に専念した方がいいのではないかという意見が出たことがあった。しかしその度に、彼らはそれを採択しなかった。全ての選択と決定に自分たちの音楽的主張、音楽家としてのバックグラウンドがあるからこそ、よい演奏ができるという信念を持っているのである。

バイオリン奏者
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王たちが民主制を採ることによってのみ、ウィーン・フィルはこれまで幾多の戦争や社会的動乱の中でも、団結して生き抜くことができた。この度のパンデミックの中にあっても、ブランドの価値を落とさない方法で対外的にその存在感を示しながら、音楽の再始動のために政治的に動いている。オーストリア=ハンガリー帝国という君主制国家の元に生まれた一地方の小さな楽団が、1842年ですでに民主制を採用し、それを構築していたことは驚きに値する。

事なかれ主義にメスを入れたグロスバウアー楽団長

一方、歴史ある「王たちの民主制」と言えば聞こえはよいが、それが馴れ合い主義、事なかれ主義の温床となり、積極的な改革を阻むこともある。痛みを伴う変化よりも、現状維持のままで自分の演奏者人生を全うできればいい。そう考えるメンバーもいるだろう。

そうした変化に重きを置かないウィーン・フィルに改善の必要を見いだし、改革に乗り出したのが、前楽団長アンドレアス・グロスバウアー(楽団長職2014年9月~2017年9月)であった。

17年という長きにわたり楽団長を担っていたクレメンス・ヘルスベルクの後を継いだグロスバウアーは、新体制の中で時代や世情に合わせた改革を推進する。歴代の有名指揮者だけでなく、新たな視点で共演歴のない指揮者やソリストを選び、新しいファン層を獲得しようと模索した。

中国出身でアメリカで学んだ若きピアニスト、ユジャ・ワンとの共演や、南米・ベネズエラ出身で当時若干35歳の若き指揮者グスターボ・ドゥダメルをニューイヤーコンサートの指揮者に抜擢したことなどである。ニューイヤーコンサートはウィーン・フィルにとって特別なイベントである。これまでは少なくとも数年以上、数十回以上の共演歴のある指揮者から慎重に選定するのが通例であり、共演歴の浅いドゥダメルの起用はまさに革新的な決定だった。

「スター・ウォーズ」の音楽家と異例の共演

また、「スター・ウォーズ」などの音楽を手がけてきたハリウッド映画音楽の巨匠、ジョン・ウィリアムズとの企画を成立させたのもこの時期である。共演は当初2018年に予定されていたが、ウィリアムズの病気によりパンデミック直前の2020年1月に延期。とはいえウィリアムズとのコンサートは一大センセーショナルとして各国に報道された。