どうやって収入を維持しているのか?

行政や法人傘下でなく、奏者自身の運営により組織の伝統を守る。この運営手法がこれほど長く続いているのは驚くべきことだ。そこには奏者が全員「ウィーン国立歌劇場管弦楽団員」であることが有利に働いている部分はあるだろう。奏者は歌劇場で日々開催されるオペラの演奏で基本収入が確保できるのである。仮にウィーン・フィルからの収入が全くないとしても、国立歌劇場管弦楽団員として生活していくことができるのだ。

奏者にとっては安定した収入があるという精神的な余裕は大きいだろう。個人の収入の面から言えば、ウィーン・フィルとしての公演のギャラは大きなプラスアルファになる。オペラ演奏で生活のための収入は確保しながら、ウィーン・フィルで演奏することで音楽的欲求を満たし、さらに高いギャラを稼ぐことができる。極めて理にかなった仕組みである。

ウィーン・フィル奏者であれば生徒を持つことも容易く、またその肩書きを使ってアンサンブルを組み、自主的に演奏を企画することもできる。こうした自由で闊達な芸術活動を選択できる運営手法があるからこそ、他者の思惑に左右されることなく、独立性を保ち続けていられるのだ。

会則の第一条に「支払い」が明記されている

続いてオーケストラの運営を具体的に見ていこう。ウィーン・フィルハーモニー協会会則の第一条「協会の目的」には次の記載がある。

1.コンサート音楽の振興
2.病人、未亡人、孤児その他への援助の供与
3.正会員及び準会員への支払い
4.この協会のための芸術的才能ある後継者の養成

ウィーン・フィルが設立された1840年代は、宮廷歌劇場の管弦楽団員とはいえ社会的立場は安定しておらず、奏者からは経済的自立や安定した収入が熱望されていた。設立時に奏者への支払いを明記した理由はそこにある。

設立当初、宮廷歌劇場楽長であった指揮者オットー・ニコライらが、コンサート収益を奏者に配分するシステムの基礎を作った。1933年以降は常任指揮者を置かず、奏者が代表的立場を担うようになってからは、指揮者への報酬交渉も団員が行なっている。

さらに、定年退職になった奏者への年金支給や遺族への援助を行なうことも、会則の第一条に明記されている。現在、協会内では独自の年金制度が構築されており、65歳で定年退職した年金受領権利のある元団員たちへの支払い基金が存在する。実はこの年金制度は、ウィーン・フィル設立以来の懸案事項であった。現役の奏者が生み出した収益を退職者にも配分することに現役奏者の理解が得られず、制度の確立には長い年月を要している。