日本型福祉社会の呪縛

1980年代に、米国型の市場社会や北欧型の福祉国家のいずれでもない、家族に依存した「日本型福祉社会」が唱えられた。この考え方は、現在でも保育制度に顕著に残っている。保育所の大部分を占める認可保育所は、「保育を必要とする子」のためのものと児童福祉法に定められているからである。

この一見、当たり前のような規定は、実は「子どもは家庭で育てられるべき」という大原則に基づいている。それが可能でない母子世帯や、両親が貧困などのためにやむを得ず働かなければならない、例外的な家族の子どもの福祉としての保育所という論理である。

このため認可保育所の利用希望者は、「保育認定」を受けなければならず、パートタイム就業や育児休業中の場合には排除されやすい。これは、利用者が自由に選択できる幼稚園のような保育サービスとの大きな違いである。

しかし、女性が男性と同様に働くことが当然であり、またそうでなければ日本社会が維持できない今後の状況の下で、すべての保育所は、福祉ではなく公共性の高いサービスとして位置付けられなければならない。

これまでの保育政策は、もっぱら「待機児童の解消」を目指してきた。しかし、ようやく保育所の供給が需要に見合ってきた現在、これからは質の高い保育サービスを競う時代になっていく。その一つの柱が、知識の詰め込みではなく、少子化社会では不可欠な協調性やコミュニケーションなどの非認知能力を高める幼児教育である。

そのためには、専業主婦についても、一時保育サービスの拡大が必要となる。従来の福祉の枠組みの下で、画一的な業務を行っていればよいのではなく、児童の安全や教育面での工夫が必要だ。現行の企業による保育所への参入を妨げている、市町村の実質的な規制の撤廃が必要だ。コーポレートブランドの高い、全国的なネットワークをもつ企業の参入も、競争を通じた保育サービスの充実に効果的である。

少子化対策とは、単に子育てにお金を付ければ良いだけではない。女性が働くことが例外的であった時代に形成された、多くの社会制度・慣行をリストラクチャリング(再構築)が必要だ。それでこそ、これまでにない「異次元の少子化対策」といえる。

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