家族ぐるみの働き方

戦後日本の高い経済成長期に普及した長期雇用や年功賃金の雇用慣行は、企業内訓練を受けた労働者を、企業が徹底的に活用することを前提としている。慢性的な長時間労働や頻繁な配置転換・転勤は、専業主婦に家事・子育てを支えられた世帯主労働者で、はじめて可能な働き方であり、いわば家族ぐるみで企業に雇われているようなものだ。それが、その後の女性の高学歴化やサービス産業の発展で、夫婦が共に正規社員として働く家族が増えると、矛盾が露呈している。

【図表2】女性の年齢別出生率

育児休業や短時間正規社員などの制度がいくら普及しても、女性の管理職比率は高まらない。これは企業の幹部の意識の問題だけではなく、仕事だけに専念できる「専業主婦付き男性」と、子育てと仕事の両立を図らなければならない既婚女性とのハンディキャップが解消できないからだ。

これに対して「男女平等のために日本の合理的な雇用慣行を犠牲にできない」と考えるのは誤りである。長期雇用保障は企業の恩恵ではなく、戦後の豊富な若年労働力や製造業の高い競争力の下での合理的な仕組みであった。そうした経済環境が変化すれば、別の合理的な形態に進化して行くことが、労使共通の利益となる。

夫婦が共に働くことは、過去の自営業主体の社会では普遍的な姿であった。それが戦後の高い経済成長という夢のような時代であったからこそ、並みのサラリーマンでも専業主婦を養えたといえる。今後の低成長時代では、夫婦が共に働き、共に子育てをすることが標準的な家族となり、専業主婦を養えるのは、一部のエリート・サラリーマンの勲章となろう。

男女の正規社員が、共に残業も転勤もない働き方になれば、平時の長い労働時間を削減することで不況期の雇用を保障することも困難となる。他方で、一家に二人の稼ぎ手がいれば、同時に失業するリスクも小さい。世帯主だけが妻子を養うことを前提とした、過去の無理な働き方の弊害の一つが、女性の子育てと就業との矛盾という形で表れている。現行の日本的雇用慣行のままでの小手先の対策では対応できない。