発達障害の人は「受け取る情報」が普通の人より多い

質問にはきちんと応えてくれるものの、私との会話はワンワードで終わってしまう。それが後藤医師との診察では数時間におよぶというから驚きだ。「どっちもひたすらマシンガントークになる」と、晶さんが説明する。

晶さんの作品の例。南雲玲生さんは「小学生時代に比べて、色の種類が増えている」という。(撮影=笹井恵里子)

そんな晶さんは取材の終盤で、絵の話になると、饒舌に語ってくれた。昔から描くのが好き。手書きだと色の直しがきかないんだけど、うまくいったら自分は天才! と思う。濃くしすぎた、失敗したと思ったら、色に対してなんだテメェはってなる。そして「南雲さんに見せようと思って、昨日描いた絵を持ってきました」と言い、カバンから取り出す。

思わず歓声をあげてしまうほどの、きれいな絵だった。

南雲さんは「小学生時代と比べると、色の種類が増えている」と、分析する。

「絵を描く人の中でも、影の部分は、計算しないとうまく描けない人が少なくありません。そういう中で発達障害の子どもたちは直感で描けたりするんです。それはたくさんの“非言語のメッセージ”を日々受け取っているから」

発達障害の人は、普通の人より多くの情報を受け取っている。だから、それがうまく変換されると、絵や文学、プログラミングなどが生まれるということかもしれない。

「才能あふれるとがった児童に向けて‼」というドーユーラボの方針が輝いて見えた。

「親の自分を一番理解しているのは、子どもだ」

晶さんに「将来の夢」を聞くと、「絵を描くか、後藤先生の後を継ぐか」との答え。

「趣味を仕事にというなら、ゲームのキャラクターデザイナーとかグラフィックデザイナーに。興味関心でいくんだったら精神科医。ついでに後藤先生の後を継ごうと思って」

“興味関心”とは、どういう意味だろうか。

「発達障害の思考が知りたい。大多数の人とどこがどう違うのか。誰かの助けになりたい、とかでは断じてない」

直子さんも、晶さんに限らず「相手のことを知れたらいい」という。

「突然走りだした人がいて『危ないな』ではなくて、なんで走ったのか。背景に思いをめぐらす、想像できるような関係を築きたいですね。子どもが相手だと難しいんですけど……。お互いに聞けたら、誤解が少なくなるし、生きやすくなると思うんですよね」

親子で病気は違うが、直子さんの“一番の理解者”は「晶さん」なのだという。「親の自分を一番理解しているのは、子どもだ」と言えるのは、すてきな親子関係と感じた。それだけ親は自分の本心を子どもに伝え、また子どものことを知ろうと関係を深めてきたのだろう。

発達障害の児童に私は初めて取材をした。取材を受けてくれたお礼を改めて伝えると、晶さんがぺこりとおじぎをしてくれた。顔をあげると、一ミリも揺らがない、まっすぐな強い眼差しを私に向ける。そしてこう言った。

「理解とか共感とかそういうことじゃなくて、発達障害……あぁ、そういうこともあるかもねというぐらいの感覚で、私みたいな人を受け入れてほしい」

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