冷静かつ客観的に自分の判断にどれだけの信用力があるのかを見極める

たとえば、「ロシアのミサイルがポーランドに着弾」という報道に接し、皆が騒然となったのは、それが比較的信用度の高いAP通信の報道だったからです。ただし僕は「ん?」と感じましたし、各国トップリーダーも比較的冷静に「情報分析を急ぐ」とのみ発表したのは、これだけ重要な情報なのにその出どころが記事の中で明確にされていなかったからです。誰が、どこで、何を見たのか(聞いたのか)、どの機関がそれを確認したのかが、記載されていなかったのです。

裁判の世界では、民事でも刑事でも、「証拠」が非常に重要な要素となります。主に人的証拠(人証)と物的証拠(物証)がありますが、何よりも重要なことは「情報源がどこまで確定しているか」です。たとえば手紙や契約書などの文書による証拠であれば、誰がこれを書き、作成したのか、いわゆる「作成名義」が厳密に探求されますし、証言については出どころが確かではない噂や又聞きなどの伝聞は、信用度が低いものとして処理されていきます。

加えてこれらの証拠・情報が反対尋問にさらされて、異議ある者による検証がなされているかどうかも重要なポイントです。

このような証拠に関するルールや手続きを踏むことで、証拠・情報はその信用度がランク付けされます。すると、証拠・情報に基づいた判断にどれだけ信用度があるのかを自覚することができるようになります。そうすることで、自分の判断が絶対的に正しいと信じ込むのではなく、冷静かつ客観的に自分の判断にどれだけの信用力があるのかを見極めるのです。

今回の「ロシアのミサイルがポーランドに着弾」という記事や、永田議員が証拠として振りかざした“メール”についても、この証拠に関するルールや手続きに基づけば、かなり信用度が低い情報によって判断していることを十分に自覚できたでしょう。自分の判断を絶対的に正しいものとして断言することはなかったはずです。

あるいは「ニセ電話」にしても、本来ならそれが本当に当人からのものなのかどうかを確認するルールや手続きを踏むべきでした。しかし、その手順を怠ったがために、首相級がニセ電話に応対する羽目に陥ったのです。

逆に言えば、「ニセ情報」はそれをつかんだだけでは処罰の対象にはなりません。ルールや手順を踏んでいなかったことが処罰の対象なのです。

AP通信の記者や永田議員の間違いは、つかんだネタの「信用度」がどのランクかをしっかり吟味することを怠り、自らの思い込みで「断定」してしまったことに尽きます。

本来、彼らがなすべきだったのは、「この情報はあくまで信用度が低いものである」ことを開示したうえで、「しかし非常に重要な情報である」ため、「あえて報道します」、あるいは「確認させてください」という姿勢を示すことでした。そうすれば結果的に情報が「フェイク」だったとしても「やはり信用度の低い情報でしたね、ごめんなさい」で済んだはずです。

世界中の情報をすべてファクトチェックしながら生きることなどできません。真実の情報だけを追い求めて判断するというなら、重要な判断を逃す機会が著しく増大します。ならば「情報」の信用度について1〜5程度にランク分けし、それに基づく自分の判断の信用力は1〜5までのどのレベルなのかを自覚する。その術が、リーダーには必要不可欠ですね。

(構成=三浦愛美 撮影=的野弘路)
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