【取り組み①】スタッフの働きやすさをとことん考える

ファミール産院の最大の特徴は、患者さんの満足とスタッフの働きやすさの両方を追求するという点です。

「病院の不都合なところをカバーしたのが診療所」(杉本理事長)というのがファミール産院の考え方です。だからこそ、ちょっとしたぜいたく感を味わえる産院を作り、そこにまた戻ってきたくなるような医療体制とサービス体制を整えています。

筆者撮影
新しくできた産院の部屋の様子(左)、右は人気の食事

宿直室はホテルの一室のよう

患者さんの満足と同じくらいファミール産院が大切にしていることは、スタッフの満足度です。

「しあわせなお産をしていただくためには、産院で働くスタッフが誇りを持てるような職場づくりが必要です。スタッフが誇りを持ち、幸せな働き方をしたいと思うからこそ、妊婦さんに寄り添い、しあわせなお産を実現することができるのです」(杉本氏)

スタッフの士気を上げる2つの取り組みがあります。

(1)働く環境の整備

ファミール産院では、スタッフの働きやすさを担保するために、スタッフの休憩場所などに非常に気を配っています。

産院の助産師さんやスタッフの仕事は大変な仕事です。さまざまなストレスもかかってきます。だからこそスタッフが働きやすい職場環境は必須です。

スタッフの休憩ルームは8畳ほどの広さがあり、明るい雰囲気のゆったりとしたスペースです。宿直用の医師の部屋はテレビ、PC作業のできる机、上質のベッドもついたホテルのような個室を用意しています。

筆者撮影
スタッフの休憩ルーム

スタッフの人員不足に困ることはない

全体で330名が働くファミール産院は、1施設当たり55名の体制です。通常の産院に比べると常勤だけでなく非常勤も含め人員を手厚くしています。

以前、館山と君津の2院だけで運営していた時には常勤のメンバー中心で運営せざるを得ず、非常に苦労したそうです。

しかし、ケアの質を維持するためには、必要最低限度の人員体制ではなく、人に投資をし、患者へのケアの質を高めていくことが求められます。

スタッフ数が増えれば、一人当たりの過重労働もなくなり、丁寧に患者さまに寄り添いサポートすることができます。結果的に患者の満足度が上がる上、スタッフの幸せな働き方につながるのです。

このような体制が整っているからこそ、産院の医師や助産師不足の中、採用が安定的にできているのです。また、給与レベルも22年に入り105~110%程度にベースアップし、金銭的な満足度も向上しているといいます。

(2)スタッフへの権限移譲

スタッフに話を聞くと、「なんでもやらせてくれるのがいい」「うるさいことを指図されることがない」など、スタッフに任せるようにしているマネジメントが、働きやすい一番の点だと教えてくれました。

実際にファミール産院には現場スタッフだけで行う運営会議で、経営に関わること以外ほぼすべての取り組み事項を決めています。

医療法人でマネジメントを上手にまわすためには現場への権限移譲をできるか否かが成否を分けるのです。