「11月から寒い時期により増えるタイプの藻類を入れたりしながら調整していきます。基本的に生産するのは野外ですから、環境の振れ幅にも耐性を持っている種がいいわけですが、暑いときに増える藻類は寒いときには増えない。暑いときに増えるもの、寒いときに増えるもの、それらが上手にかみ合ってくれれば安定した生産につながるわけです」

現在、日本全国の下水処理量は年間約150億立方メートル。それをすべて使えば、原油の生産量はこれだけになるということは計算上は示せるが、下水関係の行政官からは、そのうち実際に使えるのは何割かといった具体的なデータが常に求められている。

「たとえば、太平洋側と日本海側では、冬場の日照時間が違うでしょう。光合成はどうなんですか、と尋ねられる。そこにもまた新たな技術が必要になってくるわけですし、季節によって変わっていく藻の実態をつかむことは大きな課題でした。ただ、この1年で、1日の平均的な収穫量はなんとか見えてきたので、その地域の気象、環境に適応している土着藻類集団を活用していくことで、クリアできる可能性は高くなっています」

もっとも、そうやってさまざまな問題を技術で解決できても、コストの問題は常につきまとう。たとえば、精製コストの問題なども明確にしていかなければならないわけだが、「実際には石油と比べても大きくは変わらない」と渡邉さんは見ている。

「これからの2年間でまずそれなりの成果を出して、次のステップ、大規模なパイロットプラントでの実証研究までもっていく。いまのプランとしては、下水処理場内に直径50メートル、深さ1.4メートルぐらいのタンクを設置して実際に下水を利用して藻を生産する。

そして、国交省が下水道法を改正し、国の認可の下で藻類による下水処理と原油生産を全国の下水処理場でできるようにする。そこまでが2030年までにできれば、理想です。あと8年しかないので時間はないわけですが」

太陽光、水素では飛行機を飛ばすには役不足

渡邉さんは、藻類バイオ原油の優位性、重要性をこう説く。

「他の再生可能エネルギーももちろん重要です。しかし、たとえば、飛行機を飛ばすにあたっては、太陽光、水素などの電気エネルギーは現実的ではない。なぜならば、オイルほど高いエネルギー密度を持っている資源はないわけです。これをなぜ使わないのか、ということなのです。

撮影=プレジデントオンライン編集部
藻類産業創成コンソーシアム理事長、筑波大学共同研究フェローの渡邉信さん。

たしかに電気自動車は走らせるにあたっては、CO2は排出しません。けれども、その電気の資源は化石燃料であり、原子力であり、さらには送電で運ばれたものです。そういう意味でも、全国各地の下水資源を使い、CO2を吸収しつつ原油を生む藻類エネルギーの意義は計り知れないと思っています」

渡邉さんはエネルギー資源の限られた日本で藻類バイオマスが果たす役割の大きさを確信している。

「私たちの最終ゴールは、やはり、日本で原油をつくるということです。日本国内で原油を生産することがいかに大事であるかは、いままさにエネルギー問題に直面していることからもわかるように、国防上でも、生活していく上でも、きわめて重要だと考えています。現在の目標値からいけば、この藻類エネルギーの開発によって、日本が輸入している原油のかなりの部分をまかなえる可能性は高いとみています」

藻類バイオマスエネルギーの研究に本格的に取り組んで18年。74歳の研究者は、藻類の原油化という崇高な目標に向かってひた走る。

「解決すべき問題は多く、つらいことはつらいんですけど、実現に向けてひとつまたひとつと着実に進んでいることがいまはたまらなく幸せです」

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