思うのはOK、本人に言うのはNG

心の中でなら、いくらでも文句を言ってください。患者さん以外の人に愚痴を言うのは一向に構いません。構いませんが、直接的にも間接的にも、愚痴が本人に届いてしまうのは避けなければいけません。

面と向かって文句を言ってやりたい気持ちが抑えきれないのなら、思いきって患者さんから離れましょう。症状がひどく悪化していないのであれば、1、2時間、家を空けて患者さんを一人にしても大丈夫です。自分が一人になって気持ちを落ち着かせたり、自分だけの時間を作って何かに熱中したり、患者さん以外の誰かに会って他愛もないおしゃべりをしたりする時間を、大切にしてください。

常に、100の力で患者さんと向き合う必要はありません。

自分の心の余裕に合わせて、ドライに対応する日があってもいいし、ほったらかしにしてリフレッシュする日があってもいいのです。そばにいてつい責めるような言葉を口にしてしまうくらいなら、離れたほうがよほどお互いのためになります。

吐き出せる場を持っておく

言いたい文句が限界まで溜まってしまったとき、愚痴を吐き出せる場所を見つけておくことも大切です。

親戚や友人・知人に頼れる人がいないなら、たとえば自分がカウンセリングを利用してみたり、全国にある精神保健福祉センターに相談してみるのもいい方法です。また、通っている病院で家族会などの催しがある場合は、参加してみるのもいいでしょう。

思いを吐き出し受け止めてもらえるだけで、心の余裕は少しずつ回復していきます。患者さんのケアだけに一生懸命になりすぎず、自分自身の心のケアも忘れないこと。とくに病気がわかってすぐは、家族が張り切ってしまいがちです。スタートダッシュになってしまわないよう気をつけましょう。

イラスト=鈴木衣津子
井上智介『どうする? 家族のメンタル不調』(集英社)より

相手を直接責めてしまったら

共働きで子育て中に、夫が適応障害の診断を受け休職しました。これまで分担していた家事、育児の負担が全部のしかかってきて、病気になった夫をつい責めてしまいます。
夫が悪いわけではないとわかっているのですが……。

患者さんを責めないであげてほしい。

先の項目でも私はそう言いましたが、サポートするご家族だって人間です。ただでさえ、多くの負担を抱え押しつぶされそうになっているのですから、思いにブレーキが利かない日もあって当たり前です。

なぜ責めてはいけないのかというと、患者さん自身も家族に迷惑をかけていることをわかっているからです。わかっているし、どうにかしたいけれど、体も心もつらすぎて、どうしようもない状態です。

そこに打ち込まれる「あなたのせいで、こっちもしんどい」という言葉は、深く心に突き刺さります。

ただ、言ってしまった言葉はなかったことにできませんから、素直に謝ればいいと思います。