大会のずっと前から取材は始まっている

私がよく行っていたのは実業団チームの夏合宿と冬合宿で、夏は北海道、冬は徳之島や宮崎などで行われます。大会前は選手も緊張しているし、他の記者がたくさん来ていて落ち着きませんが、夏や冬の合宿では私一人なのでじっくり取材できるのです。

朝練習の前にストレッチをしているときや、ジョックなど軽い練習のときに「どう体調は?」「よく眠れた?」などとちょっと声をかけて、練習の調子を見守ります。あとは、お昼ご飯を一緒に食べるとか、お昼休みや練習後など余裕のあるときを見計らって話を聞くようにしました。

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選手がリラックスしているときは競技のことだけでなく、オフタイムの過ごし方も聞いてみます。おしゃれな選手なら「どんな色が好きなの?」「今はネイルアートしてないけど、理由があるのかしら」とか、ファッションやメイクのことを教えてもらったり、家族思いの選手なら「おばあちゃんっ子だったの?」と聞いてみたり。選手である前に一人の女性であると思っているので、私自身も同じ立場で興味あることをどんどん聞いてしまいます。

もちろん選手によりけりで、あちらから寄ってきてくれる人もいれば、他人とは距離を置きたい選手もいるので、取材者としてのスタンスには配慮します。私も駆け出しの頃は20代だったので、選手とは姉妹のような感覚があったけれど、年齢が離れるほどに距離感は変わってきています。

あえてタメ口を使う

さらに言葉遣いも、選手の個性に合わせるようにしています。たとえば三井住友海上の渋井陽子さんやワコールの福士加代子さんなどは、先生のような丁寧な言葉遣いで取材されるのが苦手なようでした。こちらが「ええ、そうですよね」「そこでどうされましたか?」などと丁寧語で話しかけると距離ができてしまう。

だから私も、「あっ、渋ちゃん、元気?」と、お友だちとしゃべっているような口調で声をかけています。それでも渋井さんは照れ屋さんだから、最初の頃は1対1ではしゃべりにくそうでした。

そんなときは同じチームで先輩の土佐礼子さんに、「ねえ、土佐さんも一緒に」と声をかけてみる。すると、土佐さんもふだんは大人しいけれど、渋ちゃんと一緒にいると楽しそうで、3人でわいわい話が盛り上がるのです。私のペンもすいすい走りました。

選手の思いをくみ取るためには、それぞれの個性に合わせて話を聞く姿勢が大切。時間が許す限り、彼女たちが練習する現場へ足を運び、どんな人なのかしら? とまず相手を知ることから始めてきました。