夫を利用して情報収集
スポーツの指導者は職人気質の人が多く、寡黙でなかなか話してもらえないというケースもあります。そういうときはコーチやトレーナーとか、傍らでサポートするスタッフに話を聞きます。
やはり相性もあるので、どうしても緊張する指導者に会いに行くときは、マネージャーをしてくれている夫(編註:ファイナンシャル・プランナーの木脇祐二さん)に一緒に来てもらうことも。男同士のほうが話しやすいこともありますからね。
ワコールのチームへ行くとき、夫はとても頼もしい存在でした。福士加代子さんらを指導する永山忠幸監督(現、資生堂専任コーチ)とは同じ熊本出身で、夫がいると、よくしゃべってくださるのです。
私もまだまだ大人になり切れていないところがあるので、永山さんがなかなか取材に応じてくれないときはすごく落ち込んだり、あれこれ悩んだりしながら何とかやってきた感じです。でも基本、永山さんは、とってもチャーミングな方です。
取材の端緒が見つからない時の裏技
取材の糸口が掴めないときの裏技としては、キーマンを見つけることもあります。たとえば福士加代子さんの取材では、いちばん話を聞いたのが親友の瀬川麻衣子さんです。
2人は青森の五所川原工業高校の同級生で、もともとソフトボールをやっていた福士さんを陸上部に誘ったのが麻衣ちゃんでした。いわば「長距離の女王、福士加代子の生みの親」です。誰よりも福士さんを応援している親友で、大きな大会はもちろんのこと、合宿先にもよく顔を出していました。麻衣ちゃんが精神的な支えになっていることを、永山監督も認めていて、信頼が厚かったのです。
麻衣ちゃんは現在関東に住んでいますが、私が「福士さんのご家族に会いたい」と言うと、一緒に故郷の五所川原市へ帰ってくれました。麻衣ちゃんのご実家は飲食店で、そこに福士さんのご両親を呼んでくれて、一緒に夕食を食べながら子どもの頃の話をたっぷり聞かせてもらいました。高校のグラウンドや部室も案内してくれたうえに、恩師の先生ともお食事することができたのです。
福士さんは恩師の安田信昭先生に「苦しいときに笑える選手になりなさい」と最初に教えられました。それが彼女の原点になっています。いつもニコニコしているから後輩たちからも人気なんです。
合宿先での取材といえば、海外へもあちこち行きましたね。スイスのサンモリッツ、アメリカのボルダー、ニュージーランドのクライストチャーチ、中国の昆明や麗江……。もちろん交通費や滞在費等の取材費は自前ですから大変さもありましたが、現地では監督たちも「こんな遠くまでよく来てくれたね」と快く受けいれてくださり、歓迎してくれました。監督たちの懐の深さのお陰ですね。私にとっては旅も兼ねていて、今では懐かしい思い出になっています。