「よい仕事」が評価されにくい構造的問題

先述したようにアクサスでは、日々の活動は基本的に期末の営業予算の達成度によって管理されていた。しかし営業部門以外のスタッフにとってみれば、営業予算の達成度は自身の裁量でコントロールしづらい数字であり、むしろプロジェクトの円滑な進行にとって支障となることすらあった。担当する業務においてよい仕事をすることが、管理指標にどのように貢献するかがわかりにくい状態のなか、日々の活動が続けられていた。

写真=iStock.com/ismagilov
※写真はイメージです

また、営業を含む各部門のスタッフが、営業予算の達成度とは別に、個人の能力の向上や、売り上げ以外の組織への貢献などを公式・非公式に評価される雰囲気や制度も存在しなかった。しかも、アクサスが上げた財務上の成果は、自社内ではなくグループの他の企業に再投資されていた。

成長が続いていたアクサスだが、その内部には以上のような問題を抱えていた。当時アクサスの人事部長に外部から登用された砂長義和氏(現・代表取締役)は、「ただ無機質に人が集まっている状況で、『商売』というよりも、皆で『処理』をしているように感じたのを覚えている」と述べている(『マーケティングジャーナル』Vol. 42 No. 2 (2022) p. 66)。

営業予算主導の経営管理の限界

ITエンジニアの派遣サービスという、売り手市場が続く事業領域を自社の柱としてきたこともあり、アクサスは短期的には営業重視の予算管理で成長を続けることができた。しかしそれだけでは、未来に向けて組織内の人材を育成し、制度や文化の練度を高め、取引先との関係性を強めていくという、中長期的な資源蓄積は進まなかった。

このような組織で働くスタッフにとってみれば、自分にとっても大切だと感じることができる何かが、時間とともに積み上がっていく感覚は乏しくなる。日々予算の達成をめぐって、営業とエンジニアなどの部門間の軋轢あつれきは強まる一方であり、気がめいる。一方で目を転じると、市場全体の成長は続いており、転職はしやすい。

こうなると、離職者が相次ぐことは止めがたい。この動きが臨界点に達すれば、土砂崩れのように組織の崩壊が進むことになる。

アクサスの執行部は、以上のような問題を直視し、無理な予算目標の見直しを進める。加えて彼らは、アクサスという企業の存在意義を問い直し、自社の理念とビジョンを明確にする社内プロジェクトに着手する。数字による管理の手綱を手放したわけではないが、新たに組織内に質的な共通目標となる理念とビジョンを確立することが、問題の解決につながると考え、取り組みを進めた。