かつては殺人事件が年1万8268件起きていた
ノイノイ・アキノ政権時代の2014年9月、民間世論調査機関のソーシャル・ウェザー・ステーション(SWS)が「過去半年間に自分を含む家族が何らかの犯罪の被害者になったか」について全国調査を実施した。その結果は国民の7.9%が「なった」と答えている。
過去半年内の家族の犯罪被害に限った数字である。それで、この高さだ。日本で同じ調査をしても、数字はこの10分の1も至らないはずだ。
そして、国民が怖れている犯罪には「多発する空き巣や押し入り強盗」「夜道など安全でない路上」「多い薬物依存者」が挙げられていた。
しかし、ドゥテルテ政権発足から1年余を過ぎた2017年9月の調査では、この数字が3.7%と大幅に減り、SWSがこの調査を開始して以来、最低を記録している。
警察統計でもドゥテルテ政権下での犯罪の減少は顕著に示されている。
ノイノイ・アキノ前政権下における2014年の警察によるフィリピン全体での犯罪認知件数は70万8350件で、うち英語で「MURDER」と呼ばれる計画的殺人が9948件、「HOMICIDE」と呼ばれる傷害致死を含む他の殺人が8320件。殺人事件は合わせて年1万8268件だった。
「麻薬戦争」で治安が改善
単純な比較はできないが、日本の警察統計では、2019年の傷害致死を除く殺人事件の犠牲者数は319人に過ぎなかった。フィリピンの人口が1億800万人と日本よりやや少ないことを考えれば、殺人の発生率は日本の約60倍という悪夢のような状況だった。
これがドゥテルテ政権下の2018年の統計では、犯罪認知件数は47万3068件に減り、MURDERは6866件、HOMICIDEは2151件と殺人全体の件数は14年比で半減した。強盗など凶悪犯罪全体も大幅に減っている。
2020年以降は、コロナ禍による外出制限などもあり、凶悪犯罪の数字はさらに減り続けている。これは特殊な状況ゆえあまり参考にならないが、フィリピンの治安がドゥテルテ政権下で大きく改善したことは間違いない事実だ。
ドゥテルテは、少なくとも1986年のアキノ政変以降、歴代大統領の誰もが手を付けようとしなかった国の宿痾ともいえる犯罪の横行、悪化する一方の治安を国の最重要課題と認識し、真剣に取り組んだ。そして麻薬戦争は、「ショック療法」として大きな治安改善の効果を上げたのだ。
国民の8割が支持、国際社会では犯罪者扱い
しかし、ドゥテルテは、国際的には麻薬戦争をめぐる人権問題を理由に非難を浴び続けてきた(捜査当局が殺害した被疑者数は、政府発表によると2021年12月時点で6215人に上る)。