国連人権委員会は幾度かドゥテルテ政権への非難決議を採択した。オランダのハーグに本部を置く国際刑事裁判所(ICC)はドゥテルテを人道に対する罪で裁く動きを見せており、そのための調査団のフィリピン派遣を求めてきたが、ドゥテルテは拒否し続けた。
フィリピン国民の8割に支持されてきた大統領が、国際社会では犯罪者扱いされているのだ。
国内のドゥテルテへの高支持率は、共産党一党独裁政権下の御用機関のような組織による調査結果ではない。
最大手世論調査機関ソーシャル・ウェザー・ステーション(SWS)は、1986年のアキノ政変以来35年以上の伝統と権威を持つ調査機関で、大統領支持率以外にもさまざまな世論調査結果を発表しているが、その質問項目やテーマ設定の傾向を見る限り、むしろリベラル派で反ドゥテルテ派スタッフも少なくないように見受けられる。
そのSWSでさえ、ドゥテルテが高支持率を維持し続けてきたことを平均3カ月に1度の支持率調査で明らかにしてきた。
ここまで国際的評価と国内的評価が乖離すると、ドゥテルテを非難し続ける欧米側の視点に欠けているものがあるように思えてくる。民主主義が機能し、言論の自由がかなり機能している国で、国民が高く評価している指導者と政策に対し、国際社会が真っ向から否定するというのは、建設的とは思えない。フィリピン人の評価を見下しているかのようにも思えてくる。
「私の公約は秩序の回復であり、違法薬物、犯罪との戦争だ」
イラク戦争の際、米国の新保守主義(ネオコン)派が中東全域を一気に民主化しようとし、結果として現在のシリアなどに見られるような社会の大混乱と戦乱を招いたように、その地域の伝統や社会の発展段階を無視した民主主義や人権などの価値の押しつけが失敗を招いた例は多々ある。
法と秩序が一定以上に保たれている国の人々が、それがないゆえに苦闘している国の実態を知ろうとせず、その指導者を一方的に非難し続けるのは、歴史学などで言う「アームチェア批判」(現地の事実を知ろうとせず、書斎の揺り椅子に座りながらの批判)とも言えるのではないか。
国際社会の非難に対し、2022年1月の演説でドゥテルテはこう言っている。
「私を殺すがいい、刑務所に送るがいい。ただ、絶対に謝罪はしない。私の公約は秩序の回復であり、違法薬物、犯罪との戦争だ。警察は命がけで犯罪捜査を行っている」
それ以前には「欧米諸国は人権を重視しているが、私が重みを置いているのは人権よりも人の命だ」と言ったこともある。麻薬撲滅戦争を通じて殺人など凶悪犯罪が急減したことをドゥテルテは強調したかったのだろう。