拙速だと言われても急ぐべき時がある

【村井】気になってくると新聞記事も浮かび上がって見えてくる。1月27日、政府の厚生科学審議会感染症部会はこの新型コロナウイルスを「指定感染症」に認定していると小さな扱いの記事があった。そうした情報を受けて、この日、私はJリーグの幹部宛てにメールを出して「スポーツ界で最も早く、警戒レベルを高める責任がJにはあるように思います」と伝えています。

そのうえで、「Jリーグ全体を中断、中止する時はどの状況レベルか、個別試合を中止したり、無観客試合にしたりする時はどのレベルか、ジャッジ基準は何か」と問いかけています。すでにこの時期から検討を開始しているのです。この日の国内感染者はまだ4人の段階でした。

2020年の2月24日に政府から「今後1~2週間が瀬戸際」という発表があり、それを受けた2月25日の緊急ウェブ会議で「第2節からの中断」を即断しました。総理による大規模イベントの自粛要請が出る1日前、全国の小中学校に臨時休校の要請が出る2日前だったと記憶しています。

Jリーグは地域や社会のためにやっているのに、われわれの存在が社会に迷惑をかけてしまったのではとんでもない。拙速だと言われても「ここは急がなくては」と皆で考えました。

パワポに時間を取られるなら「手書き資料」でいい

――組織マネジメントの要諦として、村井さんはJリーグ時代「PDMCA」という言葉を使われました。普通は計画(P)、実行(D)、評価(C)、改善(A)ですよね。

【村井】Mはミス、失敗です。「失敗を恐れない心をど真ん中に置こう」というメッセージですね。サッカーって手が使えませんから、プロがやってもミスの連続になります。あれだけ鍛え抜かれた選手が全力で90分間戦って、0―0で終わることがあるのは、ミスをするからです。それでもミスを恐れず、立ち上がってプレーするのがサッカーの本質ですよね。

それで同じ失敗をするなら、PDMCAをダメもとで10回回したほうが、成功の確率は上がります。確率が10%だとすれば、速く10回ミスした人が1回の成功にたどり着けるわけです。Jリーグの中にもパワポを使わず手書きの資料でプレゼンする人がいました。中身がしっかりしていれば、期日に間に合わないパワポより手書きのほうがずっといい。

撮影=奥谷仁

「どうしてもこれがやりたいんだ」という本気の提案なら、根回しに時間をかけるより、トップに直談判したほうがいい。実際、Jリーグでも僕のところに直接ねじ込んでくる人が多くいました。

話をサッカーに戻すと、これは足でやるスポーツだからどうしてもミスが出る。だったらあらかじめミスを予測して動く。それが戦略ですよね。