国民を無視したババ抜きゲーム

イギリスで水道事業が民営化された後に起きたことは、こうした資本主義的な思考の純粋な延長線上に位置する。

水道事業の所有・管理主体となった民間事業者、つまり大企業や投資ファンドは、水道インフラの維持・管理といった地道な作業には目もくれず、目先の利益を向上させるマネーゲームにのめり込んでいった。基本的には何もやらないとはいえ、何かやっているフリをして、水道料金を上げ続ける。

言い過ぎだと反論が出るかもしれない。しかし、僕が見る限り、ここ30年の全体の流れだ。

水道料金を引き上げ、コストを変えなければ、形式上の利益が大きくなる。したがって、水道事業のエクイティの価値は上がったように見える。上がったように見せておいてしばらくすると、投資銀行などのファイナンシャル・アドバイザーを使い、買い手を見つけて、水道会社の株式を売り抜く。

次のエクイティ保有者――ご多分に漏れず大企業と投資ファンド――は、高値でエクイティをつかんだことになるが、どこ吹く風だ。最終的には水道料金の引き上げという形で国民にリスクを背負わせてしまえるので、大企業や投資ファンドが損をするリスクは低い。

また、水道料金とコストの差分である利益がきちんと出ていると主張して、さらに第三者に転売していくこともできる。

実際に、民営化によって1989年に誕生したイギリス最大の民間水道事業者テムズ・ウォーターは、2000年にドイツの電気事業者RWEが買収、そのRWEは2006年に水道事業をオーストラリアのケンブル・ウォーターに売却した。

ファイナンスの世界では、最終的な受益者である消費者を無視したババ抜きゲームが頻繁に繰り返される。人間に宿った強欲は、ある種の普遍性を持っているということだろう。

水道会社の経営者の年俸は軒並みイギリス首相より多額

とにかく、民営化によって国民が受けられる水道サービスの質は大幅に低下した。

その様子を目の当たりにし、2017年には国民の83%が水道事業の再公営化を望むに至った。翌年3月には、当時の環境・食糧・農村地域省大臣が、怒りの告発をしている。

大臣は保守党議員で、財政再建と民営化を進めてきたサッチャー政権の流れに連なる人物が民営化に異を唱えたのだ。

告発によると、民営化されたイギリスの水道会社は、2007年から2016年の間に約188億ポンド(約2兆7200億円)の純利益を得ていた。この間の株主への配当額は181億ポンド(約2兆6100億円)。

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つまり、儲けのほとんどが、株主の懐に注ぎ込まれていたのだ。問題はこれだけではない。水道会社の経営者が軒並み、イギリス首相(編注:約16万ポンド=約2600万円)のなんと5倍以上の年俸を受け取っていることが明らかになった。