妊娠中のワクチン接種はメリット大

じつは妊娠中の新型コロナワクチンの接種は、怖いどころか、妊娠している女性にもおなかの赤ちゃんにとっても、むしろよいものなのです。妊娠後期に新型コロナワクチン(mRNA)を受けると、生まれた新生児に抗体が移行するため、赤ちゃんが感染から守られる可能性があります(※4)。乳幼児の新型コロナワクチンの接種が始まりましたが、生後6カ月までは受けられないので、ぜひ周囲の大人や妊婦さんが受けてお子さんを守ってあげてください。

この他にも、日本ではあまり知られていませんが、妊娠中の女性が接種するとお子さんにも抗体が移行して感染を防ぐことができる可能性のあるワクチンはあります。それはインフルエンザワクチン、百日咳ワクチンです。それぞれについて詳しく説明しましょう。

まず、特に毎年10〜11月に接種するインフルエンザワクチンは最も身近ですね。わざわざチメロサールが入っていないインフルエンザワクチンを探す人がいますが、子供の自閉症との関連はすでに否定されています。受けやすい医療機関で接種しましょう。妊娠の初期でも後期でも、妊娠を計画中でも時期を問わず、安心して受けることができます(※5)

※4 厚生労働省「新型コロナワクチンQ&A
※5 社団法人日本産科婦人科学会「妊娠している婦人もしくは授乳中の婦人に対しての新型インフルエンザ(H1N1)感染に対する対応Q&A(一般の方対象)

写真=iStock.com/ArtMarie
※写真はイメージです

他の先進国で妊娠後期に接種する「Tdap」

次に百日咳ワクチンは、単体ではなく3種混合(ジフテリア・破傷風・百日咳)で接種します。百日咳は月齢の小さい子がかかるととても悪くなりやすく、亡くなってしまうこともある恐ろしい病気です。見かけたことがないという人も多いと思いますが、文字通り100日間(3カ月)くらい続くこともある長引く咳が特徴です。

YouTubeで「baby pertussis」と検索すると、百日咳にかかってけいれん性の激しい咳をする赤ちゃんの動画が出てきます。「感染症はワクチンを受けるよりもかかったほうがいい」などと言う人もいますが、顔色が悪くなって激しい咳発作に苦しむ子供を見ながら、そんなことを言える人はいないでしょう。

こうした百日咳から子供を守るために、海外の一般的な先進国では妊娠後期に「Tdap」という成人用3種混合ワクチンを受けます。アメリカでは、妊婦さん(妊娠するたびに)だけでなく、乳児の世話をする成人や医療従事者もTdapを接種しています。

ところが、日本ではこのワクチンは未承認で、残念ながら通常の医療機関では接種できません。そして子供用として承認されている3種混合あるいは4種混合ワクチンは、妊婦への安全性が確認されていないのです。ですから、日本でTdapを受けるには渡航ワクチンやトラベルワクチンを扱っている医療機関に行く必要があります。ただ、この場合は自費扱いとなり、万が一にも有害事象が起こったときに予防接種法による補償がありません。