別居
実家に帰った西山さんは、中学2年の息子が「転校したくない」と言うため、息子の中学校の学区内でアパートを探し、2人で暮らし始めた。
別居を始めてからも、夫とは話し合いをしていた。その際、夫は、出て行った妻子に怒りが収まらないのか、離婚届を取り出して、「もう離婚の意思は固まっている」と繰り返すばかり。
一方、西山さんは「夫と暮らすのはもう限界だ」と感じ、家を飛び出たものの、「まだやり直せるのではないか」「いや離婚するべきだ」……と心が揺れていた。夫にも、正直にそうした気持ちを伝えていたが、夫は「別れたほうがいい」との一点張りだった。
ここできっぱりと離婚すればよかったのではないかと感じるが、西山さんはそうしなかった。なぜだろうか。
「この頃の私はまだ、『夫は、本当は優しい人。夫がいなくなったら私は終わりだ。私が悪いのだから悔い改めて、しばらく別居して夫の気持ちが落ち着いたら戻れるはず』と思っていました。ばかですね。でもそれが、『モラハラから逃れるのは難しい』という現実だと思うのです。夫に精神的に依存していましたね。よく、『お前は俺がいないとダメだろうな、誰もお前みたいなばかでダメなやつ、受け入れられないだろう。子どもだって、お前一人で育てられるわけがない』と言われて、自己肯定感を下げられていました。洗脳されていましたね……」
西山さんは、両親に相談し始めた1年ほど前から、20年来の友人や、信頼する職場の人に、「夫がモラハラみたい」「働きに行ってくれなくなった」と相談していた。相談すると誰もが口をそろえたように、「別れなさい」と言ったが、「大丈夫。いつか幸せな家庭になれる」と信じて別れようとはしなかった。
しかし月日は流れ、西山さんの気持ちも次第に離婚に傾いてきていた。夫の長女にLINEで相談してみたこともあったが、「お父さんは言ったら引き下がらないから……」と返ってきたのみ。西山さんは、「夫の娘たちは、夫からの暴言を日常的に受けながら育ったのではないか」と思った。
わらにもすがる思いで、女性の悩み相談所にも足を運んだ。相談員からは、「完全なモラハラ、精神的な暴力です。治ることはないでしょう。まだまだ人生長いですよ。そんな人にあなたの人生を費やす必要はありません。もっと幸せに生きていいんですよ。そんなヒモの男とはもう別れていい。弁護士さんに相談しなさい。夫が突然訪ねて来ないように、警察にも相談しておきなさい」と背中を押された西山さんは、ようやく離婚を決意。別居からすでに半年が経っていた。