受話器を叩きつける同僚に「君は電話がうまい」
GEは、航空会社を潰すわけにはいかなかった。だから9月11日から12月1日までに数百億ドルを融資した。だが、たとえそれで航空会社が救われたとしても、その後も厳しい戦いが続くことになる。
この時点で航空会社は、保険契約に含まれる特殊なテロ関連例外条項の審査に合格した外国にしかフライトが認められなかった。当時、そのような審査を通過した国はごくわずかだった。たとえ今後GEがリースした飛行機がテロ攻撃に利用されたとしてもGEが責任を負うことはない、という状況を確保しなければならなかった。だから平日の夕方になると、私たちは審査に合格しなかった国の航空会社に電話をかけたのである。
毎晩、私たちは航空会社のCEOかその国の大統領に電話をして、悪い知らせを伝えた。「明日、GEの飛行機を飛ばさないでください。あなたの国がテロ関連の例外条項審査に合格しなかったのです」。トリプルDことダマーマンがポーランドや日本やオーストラリアのリーダーに電話をかけて、「明日、私たちがリースしている8機のGE飛行機を使わないでくれ」と伝える。すると相手は、そんな話は認められないと答える。それに対してトリプルDは、「頼んだのではない、命じたのだ」と応じる。
会話は感情的になる。「ばかばかしい」という言葉が受話器の向こうから聞こえてくると、トリプルDが「絶対に飛ばすなよ。飛ばしたら訴えるからな!」と叫び返す。
私は、そのような言い争いがしばらく続いたあと、トリプルDが受話器をたたきつけるように置いたのを見たことがある。その様子が今でも忘れられない。一呼吸置いてから、私は彼に笑いかけてこう言った。「次の電話、私の代わりにやってくれるか。君のほうが上手だから」