そのころ、私は毎晩のように幹部チームと電話でやりとりして、会社の損害について話し合った。毎晩、新たな問題が生じた。言葉のあやではなく、本当に“新しい”問題が。自分が新しい言語を習っているような気になることもあった。
誰かがこう言う。「つまり、明日我々がアメリカン航空のEETCを10億ドルで買わなければ、彼らは破産してしまう」。EETCとは「拡張航空機材信託証券」という債券の一種のことだ。私ですら、ダマーマンが初めてその略語を使ったときには尋ねる必要があった。「おい、EETCって何だ」。これほど短期間で多くを学んだ経験はほかでしたことがない。
私たち全員が「トリプルD」と呼んでいたデニス・ディーン・ダマーマンは、この上なくタフな金融マンだった。1984年、38歳の若さでジャック・ウェルチからGE史上最年少のCFOに任命された彼は、2001年時点でありとあらゆることをすでに経験していた。だからこそ、混乱を目の前にしても落ち着いていられたのだろう。私にとっては指導者のような存在だ。
まだビジネススクールに在学していた私を初めて面接したGE関係者がダマーマンで、それ以来、私は彼のサポートにつねに感謝している。そして今、私は彼の冷静さをいつにも増してありがたいと思った。
最高のリーダーに必要な素質
最高のリーダーは不安を和らげる。けむに巻いたり、できもしないことを約束したりして、落ち着かせるのではない。真実を正しく伝えたうえで、人々に前に進む力を与えるのが最高のリーダーだ。
9.11をきっかけに、GEの社員は私たちには計画があり、その計画の実行には彼らの協力が欠かせないのだというメッセージを聞きたい、信じたいと願っていた。私がうろたえて、吐き気を抑えるのに必死だったなどという話は、誰も聞きたくないのだ。
真のリーダーは率直でありながらも、パニックに陥ることはない。最高のリーダーは過ちを認めるが、自分の後ろめたさを誤魔化すために、同僚に責任を押しつけたりはしない。透明性を目指すのはすばらしいことだ。しかし、本当のゴールは透明性ではなく、問題の解決である。行動計画を示すことなく自分の責任だけを減らそうとする行為は、率直さを装った利己主義に過ぎない。殊勝な態度に見えても、実際には傲慢さの表れなのである。