厳重な管理下での作業ではやる気は引き出せない

ロンドン・オリンピック開会式の準備に向けて働いていたスタッフは1万人ほどいたが、実を言えば、当初、応募があった人数は1万5000人を超えていた。だが、長年の経験で、その中には必ず、目立ちたがりな人間が一定数、混じっていることを知っていた。

自分の見たことを言いふらして他人の関心を引こうとする人間だ。ボイルは、BBCにいた当時に共に仕事をした有能なアシスタントたちに頼み、情報漏洩の危険の高そうな応募者を排除させた。ただ、むげに断るようなことはせず、丁重に「今は人数が足りている」と説明した。

ここで重要なのは、機密管理のために5000人が排除されたことを、採用された1万人が知ればどう思うか、ということだ。きっと、4年前の北京オリンピックの開会式と同じような、厳重な管理の下で働かねばならないのか、と思うだろう。能力は求められるが、ただ決められた仕事を淡々とこなすだけで、創造に貢献している実感は得られないのではないか、と思うかもしれない。だが、ボイルは、機密管理をしながら、同時にスタッフのやる気も引き出すような方法を採った。

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機密管理以外にも問題は起きた。オリンピック委員会がボイルに「ボランティアのスタッフには、コスチュームの代金を払わせるべき」と言ってきたのだ。しかし、ボイルはこれを拒否した。スタッフは大変な長時間を費やして働いてくれている。だが、コスチューム以外、形のあるものは何も受け取らない。

委員会が強硬に主張したことで、元来は温厚なボイルが怒った。ボランティアにコスチュームの代金を払わせるなど、絶対にあってはならないことだ。委員会はボイルの辞任を望んでいるのだろうか。どうしても開会式を失敗に終わらせたいのだろうか。スタッフにコスチュームが無料で配布されれば、スタッフには感謝の気持ちが生まれ、仕事へのやる気も湧くだろう(ボイルが怒ることは稀で、この時も直後に謝罪している。オリンピック委員もそれで気分を害するようなことはなかった)。